「棺は12世紀になって出てきたことになっています。そこにはアーサー王の時代に使われていたとはとても思えない、12世紀当時っぽい表現で、『アーサー王、ここに眠る』みたいなことが書いてあったそうです。アーサーはいまでこそ王(rex)と呼ばれていますが、生きていた時代には戦士の長(dux bellorum)でした。なのに、『王』と書かれてあったことで、変だな……となったようです」
設定がだいぶ雑である……。しかしながら、グラストンベリー修道院はこの伝説によって「うち、すごい聖地だぜ!」とプロモーションすることに成功する。
フェイクの伝説が経済を動かした!
聖人の逸話で巡礼者がやって来る
それからしばらく、13世紀の半ばにつくり出されたのがアリマタヤのヨセフ伝説だ(PR大作戦フェーズ2)。アリマタヤのヨセフという聖人がいた。キリストの遺体を引き取った人で、河西先生は「わりとマイナー聖人なんです」と語る。
「そのヨセフが布教のためにイングランドにやって来たという伝説があるんです。グラストンベリーにもやって来て、教会を建てるための土地を地元のペイガン(ドルイド)から与えられたということになっています。修道院の歴史書には、ヨセフが修道院の創始者として記録されています」
当時のイギリスはキリスト教世界では隅っこの存在だった。やはりイタリアなどが中心だったからだ。
「そこで『うちにも聖人が欲しいぜ』ってことで、マイナーな聖人なら、まあ問題にならないだろうと、そういう話をつくったようなんですね……」
13世紀半ばになって、アリマタヤのヨセフがグラストンベリーに最初の教会をつくった人として認定されると、「グラストンベリー、すげー!」ということになって、イングランド各地から巡礼者がやって来るようになった。町は栄えまくる。結果としてグラストンベリー修道院は、14世紀から16世紀にかけて、イングランドではウェストミンスターに次いで2番目に繁栄した修道院になった。
「つまり、古来からフェイクは得意なんですね」







