候補者が限られているからこそ、
今、目の前にいる人の可能性を生かし切るという発想が重要

「でも、うちには幹部を任せたい人がいないんですよ」「ある会社からスカウトして後継者候補を採用したんですが……。実際に仕事を任せてみるとまだまだですね。大企業みたいな仕事の進め方をしているんですよね……」

 自社内に経営・幹部候補を任せたい人材がいれば、後継者不在の悩みを持ちません。また、社外から後継者にぴったりな人が採用できるのであれば、やはりこの問題は生じ得ません。この問題の前提であり焦点となるのは、社内から選抜しようが、社外から採用しようが、いずれにせよ“今、目の前にいる候補者を育成するしかない”ということです。

 大手企業であれば候補者を潤沢に揃え、“この人でなければ次の候補者”という方法で進めることも可能です。そこで必要になるのは人材要件の定義と選抜・育成・登用の仕組み・制度設計ですが、中小企業ではそうはいかないことが多いです。候補者が限られるなか、今、目の前にいる候補者を育てるしかないのです。候補者に問題・課題があることを前提に、その問題に着眼して改善させるだけでなく、その人のもつ潜在的な可能性・兆しにも着眼してそこの賭け生かしきるという発想が求められます。

経営幹部育成の狙いは
「引き継いだ後、実際に経営していけるか」

 ある経営者が「多くの経営者は“誰にどう引き継ぐか”を考えているが、自分は引継ぎ可能な状態にしてあげたい」と語っていました。この言葉は何を意味しているのでしょうか?

 多くの企業の経営幹部育成を見ると、問題・不足に着眼して、「不足しているスキル・知識を身に付けさせる」というような育成方法がとられています。しかし、一度立ち止まって考えたいのが「スキル・知識があれば経営できるのか?」ということです。

 もちろん、スキル・知識の必要性を軽視しているわけではなく、持つべき知識がない結果、誤った経営判断に至ってしまう事もあり得ます。しかし、スキル・知識のみで経営ができるなら、学者やコンサルタント皆が最高の経営者になれるはずです。実際のビジネスの世界はそうではありません。

「引き継いだ後、実際に経営していけるか」

 この視点を入れてみることで、これまでの育成に欠けていたことがいくつか見えてくるはずです。