目指すべきは「育成上手」な管理職
就業者の組織適応について、長年にわたって研究してきた尾形教授だが、「オンボーディングがうまくいっている会社/うまくいかない会社」の差はいったいどこにあると考えているのだろう。
尾形 私はさまざまな企業の人事や現場の方と話をする機会がありますが、中途入社の人に対して本当に必要なサポートというのが基本的に足りていないと感じます。同じ会社でも、部署によって手厚いところもあれば、まったくサポートしていないというところもあって、その差を生み出しているのは「管理職の意識の差」だと考えます。
管理職が新入社員の育成やサポートに熱心だと、周囲も自然と協力的になりますが、気の回らない管理職だと放置されがちになってしまいます。ですから、人事部門がオンボーディングの意義をトップに提言して、先述のとおり、客観的なデータを示して理解を得る必要があります。トップの意識が変われば、制度化・仕組み化されていくでしょう。
管理職世代のなかには、昭和的なやり方で「教わるより、自分で覚えろ」「上司の背中を見て学べ」と育ってきた人も多く、どう部下を育てればよいのかがわからないという人も多いのではないだろうか。
尾形 オンボーディングにおいては、入社者だけでなく、「育成する側のスキル」に目を向けることも重要です。育成は、自分がどのように育てられてきたかに影響を受けがちで、上司は「育てているつもり」でも、部下にしてみると「育ててもらっている実感がない」というギャップがよくあります。
実際、「どう育てればいいのか、わからない」と悩みながら、手探りで対応しているケースが多いのではないでしょうか。そこで、「育成が上手な人」の知見を社内で共有し合うような、管理職同士の横のつながりをつくることが有効です。それこそ、人事の出番といえるでしょう。
では、「育成上手」になるためには、どのようなスキルが必要なのだろうか。
尾形 マネジメント研修では、コミュニケーションやコーチング、ファシリテーションについて学ぶ機会が多いように思いますが、人材育成においてはそうしたスキルを土台としながら、私が「育成メタスキル」と呼ぶ高度な能力が求められると思います。
具体的には、「観察力」「見極め力」「場作り力」といった、状況を俯瞰的、洞察的に捉えて適切に働きかけるスキルです。育成力を高めるための研修というのがほとんどないような現状なので、そこは課題だと思っていますが、管理職同士が社内で育成について話し合う機会をつくるというのも一手だと思います。








