「経験者だから」と放置するのはもってのほか
オンボーディングは、そもそも、「船や飛行機などに乗る」ことを意味する「on-board」から派生した言葉だ。英語圏ではチームや会社に新しく加わった人に、歓迎の意を込めて「Welcome on board!」と声をかけるという。業務の理解やスキルの習得といった従来の入社者支援とは異なり、オンボーディングで肝となるのは、組織の一員として「いかになじませるか」だと尾形教授は指摘する。中途社員が組織になじむうえで壁となっていることは何だろうか。
尾形 中途で入社した人たちが直面しやすい問題として、入社した会社の文化や人間関係、働き方のギャップが挙げられます。彼ら彼女らは、職務上のスキルや知識は持っていても、新しい職場の雰囲気やルール、組織文化になじむのには時間がかかることが多いのです。例えば、「この上司はどう接すればよいか、わからない」「前職のやり方とは違いすぎる」といった戸惑いです。新しい環境になじむために乗り越えなければならない適応課題に苦しむのは、新卒者よりも中途入社者が圧倒的に多いのです。
新卒のように同期もいなければ、先輩から手取り足取り教えてもらえるわけでもない。慣れない環境下で、失敗が許されにくいプレッシャーも感じながら、中途入社者が職場に適応するまでのハードルは高そうだ。
尾形 適応課題を解決するうえで、変わらなければならないのは個人だけでなく、受け入れる組織もまた同様であるという点は重要です。つまり、チームメンバーや上司、管理職もそれまでのやり方や考え方を変える必要があるということです。
新たに入社した“仲間”に能力を存分に発揮してもらうには、どういったフォローが必要なのか、まずは本人の声に耳を傾け、「なぜ、なじめないのか」を把握することです。「経験者だから、わからなければ自分で何とかするだろう」と放置するのはもってのほかです。どんな適応課題があるのかは一人ひとり異なるので、カスタマイズしたサポートが必要になります。
「転職が当たり前」となったいま、「どうせすぐに辞めてしまうのだから、オンボーディングに労力をかけても無駄だ」と考えるのか。それとも、「貴重な人材を早く戦力化するために、オンボーディングに注力すべきだ」と考えるのか。未曽有の人口減少時代において、企業が取るべき選択は明らかだろう。
尾形 オンボーディングに限らず、人事部門が忙しい現場(中途採用者の配属先)に忖度してしまい、有意義だと思う施策、やりたい施策でもなかなか提案できないということは多々あるでしょう。なるべく、現場の負担にならないような施策、効果が数値化しやすい施策から手を付けがちだと思います。
人を育てるのは難しいし、一朝一夕にはいかないものです。忙しい現場や経営層を、「それでもやらなくては」という気にさせるのは人事部門の役割で、そのためには説得力のあるデータを用意して、育成の重要性を伝えなくてはなりません。
社員の意識調査やエンゲージメントサーベイなどを実施している会社は多いかと思いますが、その後の施策に活用している会社はほとんどないように感じています。調査を儀式化しても意味はありませんから、明確な目的のもとにデータを集めて、分析して、根拠として示す。人事部門は「職場をよくするためのグランドデザインをする」という意識をもっと持つべきだと考えます。








