「魅力ある環境」が人を惹きつけ、「定着」を促す
近年は「働き方」に対する意識が大きく変わり、特に成長意欲の高い若手社員は、入社後早々にキャリアパスの見極めを行い、「成長機会が十分でない」と判断すると転職を選ぶ傾向がある。こうした状況で、入社者の定着を図ることは企業にとって大きな課題だ。
尾形 大学で学生たちと接していると、「就社」をゴールとせず、自分のキャリアを非常にシビアに考えている人が多いと感じます。だからといって、誰もが転職を望んでいるわけではありません。やりがいがあって働きやすい職場であれば長く勤めたいけれど、入社してがっかりしたくないから、期待値をあらかじめ抑えている面もあるのだと思います。
ですから、入社した会社にしっかりサポートされ、熱意をもって育ててもらえていると感じたら、うれしいし、期待に応えようとするのではないでしょうか。結果として、エンゲージメントの向上にもつながるはずです。
ただし、オンボーディングをいくら丁寧に行(おこな)っても、既存社員へのケアやサポートが不十分では定着にはつながらない可能性もあります。職場の先輩たちが疲弊しきって働いている姿を見て、「自分はあんなふうになりたくない」と辞めてしまう若手社員は少なくありません。既存社員が死んだ魚のような目をして働いている職場では、新しく入った人も生き生きと働けないでしょう。
逆に、先輩社員や管理職が夢や目標を持って生き生きと働いていれば、新入社員も「この会社で働き続けたら、自分もあんなふうに働けるんだ」と思い、長期定着につながるはずです。管理職や人事部門には、そういうポジティブな連鎖を生み出すような職場環境づくりを目指していただきたい。そのためには、人事担当者自身が使命感を持って、生き生きと働くことも重要だと思っています。
育成そのものだけではなく、職場の環境づくりも含めて、オンボーディングを広く捉え直す必要があるだろう。
尾形 オンボーディングは単なる新人研修の延長ではなく、「組織文化全体の土台づくり」と考えるべきです。社員の満足度や定着率を高めるには、「この会社でずっと働き続けたい」と思える魅力的な職場環境・組織文化を築くことが不可欠なのです。
自分の研究を否定することになるかもしれませんが(笑)、「オンボーディングの必要がない職場」が究極の理想だと考えます。入社後はもちろん、困ったときにはいつでも、先輩や上司、現場の誰もが自然にサポートするような風土があれば、わざわざ、制度としてオンボーディングを行う必要もなくなるのですから。新卒も中途採用者も、若手もベテランも、皆が生き生きと働ける――それこそ、人事部門や管理職が目指すべき環境ではないでしょうか。










