形だけの「女性活躍推進」から脱却し、いまこそ「多様性」を戦力に変えるとき

「女性活躍推進」という言葉が世間に広がって久しいものの、管理職に占める女性の割合や男女の賃金格差には、いまだに大きな開きがある。数値目標を追うだけの登用ではなく、女性一人ひとりの能力を引き出し、組織の成長につなげるためには何が必要なのか。2008年から“女性のためのリカレント教育”を先駆けて実践し、長年にわたり、“女性のキャリア形成”について研究している関西学院大学の大内章子教授に、企業がいま向き合うべき「女性活躍推進」の本質について話を聞いた。(構成/アーク・コミュニケーションズ・阿部加寿世、ダイヤモンド社・人材開発編集部、撮影/菅沢健治)

「学び直し」が後押しする女性のキャリア形成

 大内教授が、女性向けのリカレント教育として「ハッピーキャリアプログラム」を関西学院大学で立ち上げたのは2008年のこと。文部科学省の委託事業である「社会人学び直しニーズ対応教育推進プログラム」に採択され、女性の職場復帰や再就職、起業を支援する目的で開講された。当時の女性たちのキャリア意識はどのようなものだったのだろうか。

大内 「ハッピーキャリアプログラム」は、出産や育児などで職場を離れた女性たちのキャリア形成をサポートするためにスタートしました。いまでは共働きや復職が一般的になってきましたが、2008年当時はまだ多くなく、「女性活躍」という言葉もほとんど聞かれない時代でした。「ワークライフバランス元年」といわれるのが、ちょうど、その2008年のことで、社会全体が個人の働き方に目を向け始めたタイミングでもありました。

「何かを始めたいけれど、何をすればいいのかわからない」「復職したいけれど、以前のように働けるか自信がない」といった漠然とした不安や迷いを抱える女性たちが、一歩を踏み出せるように、自分らしくいきいき働けるように──そんな思いで、「ハッピーキャリアプログラム」を開講したのです。

▲関西学院大学「ハッピーキャリアプログラム」のホームページ
ハッピーキャリアプログラムは、「女性の活躍は企業を変える、社会を変える」「自分らしく働き、生きる」をコンセプトに、2008年に開講。2025年度からは、「女性リーダー育成」に特化したプログラムを実施している。
▲関西学院大学「ハッピーキャリアプログラム」のホームページ
ハッピーキャリアプログラムは、「女性の活躍は企業を変える、社会を変える」「自分らしく働き、生きる」をコンセプトに、2008年に開講。2025年度からは、「女性リーダー育成」に特化したプログラムを実施している。

「ハッピーキャリアプログラム」を立ち上げてから今年(2025年)で17年目を迎えるが、受講生の特徴などに変化は見られるのだろうか。

大内 開講した頃は、「このままじゃいけない」といった焦りや危機感から受講する女性が多く、なかには家族に内緒で通っているという方もいました。しかし最近は、キャリアについて家族と話し合い、理解を得たうえで参加される方が増えています。「やってみたら?」と背中を押してくれる家族の存在も心強いようです。

 さらに、コロナ禍以降のオンライン学習の普及や、YouTube、学習アプリなどの多様な学習資源の広がりも、女性たちの学び直しを後押ししている要因だと思います。

 昨今は、情報も学習ツールも豊富で、独学も可能な時代だ。そうしたなかで、あえてプログラムに参加する価値とは?

大内 もちろん、無料の動画や書籍など、独学の手段はあります。しかし、「何から手をつければいいのかわからない」「一人ではモチベーションが続かない」という声は非常に多いのです。このプログラムの特徴は、受講生同士のディスカッションや、自分の考えを言葉にして伝えるという能動的な学びの機会が得られる点です。また、同じ志を持つ仲間との出会いや連帯感は、何よりの支えになります。プログラム修了後も交流が続くほど、深い人間関係が育まれています。

 最近では、働きながら受講し、キャリアアップやキャリアチェンジを目指す方も増えています。社内研修では得られない視点を求めて参加されるケースもありますし、「職場では本音を話しにくいけれど、ここなら安心して話せる」という声も多いですね。年齢も職歴も多様な受講生が集まることで、異なる価値観に触れられるという点でも、非常に貴重な学びの場になっていると思います。

形だけの「女性活躍推進」から脱却し、いまこそ「多様性」を戦力に変えるとき

大内章子  Akiko OUCHI

関西学院大学 経営戦略研究科教授

慶應義塾大学商学部卒業後、総合商社勤務を経て、慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。三重大学人文学部助教授などを経て、現職。大卒女性ホワイトカラーのキャリア形成などを調査研究。2008年より関西学院大学にて女性の再就職・育休復帰、起業、リーダー育成事業「ハッピーキャリアプログラム」を企画・運営する。編著に『職場の経営学―ミドル・マネジメントのための実践的ヒント』(中央経済社)がある。