ただ、この実験では、食餌制限を行わなかった群、つまり通常の食事をとった群が用意されておらず、またテストした動物個体数が少なかった。ゆえに、食餌を制限すれば老化が遅延し寿命が延長するという仮説に対し、必ずしも科学的な裏付けが得られたとは言えなかった。

 食餌の制限で確かに寿命が延びるということが最初に報告されたのは、それから20年後だった。クライヴ・マッケイは、100匹以上のラットを準備し、これを3つの群に分けた(図1)。1つめのグループには通常通り、自由に好きなだけ(ad libitum、いわゆるアドリブ)摂食させた。一方、2つめのグループには離乳後すぐ、3つめのグループには離乳後さらに2週間が経ってから、食餌制限をかけた。

図1:マッケイによるラットの食餌制限実験イラスト/安斉俊(同書より転載) 拡大画像表示

マッケイの食餌制限実験が
食餌量と寿命の因果関係を示唆

 2および3のグループには、体重増加があまりおこらないようコントロールしながら、しかし栄養失調にならないよう配慮しながら食餌制限を行った。これは、それまで行われた研究の多くが、絶食による飢餓条件を用いていたのとは異なる。当たり前だが、痩せ細って死んでしまうほどに栄養を制限すれば、健康は維持できない。

 マッケイの食餌制限実験は見事に、食餌量の低下と寿命の延長の間の「因果関係」を示唆していた。自由に摂食したグループ1に比べ、グループ2と3では寿命が延長していたのだ。