元々長生きする素養のあった人が、たまたま食べすぎを嫌う性質だっただけかもしれない。あるいは、食欲を抑えられない性質が、向こう見ずな(リスクをとりがちな?)性格と同一のために、早死にするリスクが高いというだけ、ということもありうる。
これはちょうど、いつも事件現場にいる人が事件をおこす犯人であるわけではないことに似ている。事件を解決する名探偵かもしれないし、事件現場を清掃する業者の人かもしれない。あるいは事件と全く関係なく、とてつもなく運の悪い人かもしれない。
したがって、ある食環境が、寿命を直接的に縮める犯人であることを証明するのはなかなか骨の折れる仕事である。直接的には、その食環境を取り除いてみて、寿命がかわるかどうかを確かめなくてはならない。できれば遺伝子や食事以外の環境要因は揃えた上で実験する必要がある。もちろんヒトでこのような実験をすることは現実的に不可能である。さて、どうしようか。
そこで、モデル生物を使った実験が有効である。
ラットを使った実験を通して
食餌制限と老化遅延を検証
食事を制限することで老化が抑制できるかどうか調べる実験は、かなり古くから試みられている。
20世紀初頭、トーマス・オズボーンらの研究室では、ラットを用いて栄養に関する研究を行っていた。彼らのラボには栄養不足で発育不全となったラットがたくさんいたのだが、彼らは、そんなラットのうち1匹が、40カ月を超えてもまだ生きていることに驚いた。それ以前の論文で、3歳のラットは人の90歳に相当すると報告されていたからである。
そこで、彼らは4匹のラットに対し、最初の数カ月~1年半のあいだ食餌(しょくじ)制限(動物の場合は食事ではなく食餌を用いる)を行い、閉経のタイミングを計測した。その結果、一般的に知られる閉経時期よりも閉経が遅れている、つまり老化が遅延している可能性が浮上したのだ。







