ラットによる実験には
さまざまな課題も…

 当たり前であるが、ヒトは1つの細胞(受精卵)から始まり、体をつくって成長し、性成熟を経て子孫を残す。そして、やがて老化し死を迎える。このようなヒトのライフサイクルは、一部の例外(不老不死のクラゲもいる)を除いて、すべての動物に当てはまる。

 草食・肉食、食べる・飲む・吸うなど、さまざまな摂食様式・形態の違いはあれど、ヒトも他の動物も、食事により養分を摂取し、不要なものは排泄しながら、成長し老化する。この点は共通である。

 さらに、必要な栄養素もたいていの場合共通である。三大栄養素といわれる糖・脂質・タンパク質を摂取し、ここからエネルギーを取り出し、体を構成する部品をつくる。

 さらに、どの動物の体も、似たような細胞からできている。それがミジンコのように肉眼で見えないくらい小さい生物であろうが、ゾウのようにヒトよりはるかに大きいものであろうが関係ない。また、海にいようが川にいようが陸にいようが空を飛んでいようが、俊敏に動こうがほとんど動かなかろうが、やはりその中身は似たような細胞である。したがって、栄養摂取と老化・寿命の間に何らかの関係があるとすれば、理論上、どんな動物でも同じことがおこる可能性がある。

 ラットの実験から、カロリーを制限すれば寿命が延びる可能性があるとわかった。しかし、ラットの実験には3年以上かかるし、たくさんの動物を準備するのは場所もとるし餌代もかかる。世話するのに骨も折れる。

 3年も飼育していれば、途中で不運な事故に遭う可能性も高い。例えば、途中で冷房が壊れたり、餌の質が悪化したりすれば、急に具合が悪くなったりして、個体が死んでしまうことがある。感染もあるかもしれない。動物の一生にわたって不運な事故死や病死を防ぎ健康に維持せねばならないため、寿命の測定というのは一般に予想される以上に大変なのである。