これからの相続の新常識
やっておくべき三つのタワマン節税対策
――税務署による否認リスクが高まる中、タワマンにおける「相続の新常識」となる節税対策を教えてください。
大岡:今の税務調査は、単に書類の計算が合っているかを見るのではなく、取引の「実態」と「目的」を深く掘り下げてきます。特にタワマン節税の場合、「租税回避目的がある」と認定されると総則6項の適用を招きますから、それを防ぐための客観的な証拠があることが不可欠です。具体的な準備は以下の3点に集約されます。
大岡俊明(おおおか・としあき)/税理士。クロスウィード税理士事務所代表。2010年、メンターキャピタル税務事務所(現メンターキャピタル税理士法人)に入所、不動産・再生可能エネルギー等のSPCや中小企業への会計税務サポートを中心に業務を行う。また、M&Aのファイナンシャルアドバイザリー業務や財務税務デューデリジェンス業務にも従事。中小企業の融資サポート、相続税申告等の業務も行う。2024年にクロスウィード税理士事務所を開業。
まず一つ目に、「何のための購入か」を明確にしてください。最も危険なのは、購入理由が「相続税の節税」としか説明できないことです。購入理由が「賃貸経営による安定収入の確保」や「将来的な居住用不動産の確保」など明確な場合、裏付ける客観的な証拠をきちんと残しておくことが重要です。
具体的には、不動産購入時の事業計画書や、金融機関に提出した収支シミュレーションなどがこれにあたります。事業計画やシミュレーションをする上で大事なポイントとして、金融機関とローンを組む際に借入人の年齢とローン期間について平均寿命から逸脱するような計画は避けた方がよいかと考えます。これらは「節税目的ではない」ことを示す強力な武器になります。
最高裁判決の事例でも、相続直後の短期売却が租税回避の意図を示す決定的な証拠の一つとされました。これからのタワマン節税では、「売却益狙いではない」、「長期で運用する意思がある」ことを示すことも大切です。
二つ目の対策として購入後は長期の賃貸借契約を締結し、安定した運用実績を積み重ねてください。また、相続後もすぐに売却せず、継続して賃貸事業を続けるという姿勢も大切です。あくまで投資物件であり、一時的な「相続税対策用の道具」ではないという実態を明確にすることもおすすめです。
最後の三つ目は、法人の設立です。法人の設立は法人を維持するためには赤字であっても発生する法人住民税を負担したり、相続時に高額になりやすい株式評価の対策が必要となります。しかし、不動産収入を個人ではなく法人で受け取ることで、所得の分散が図れるため節税にもつながることもあります。
法人から家族である相続人へ役員報酬として所得を分散することで、個人の所得税の累進課税を緩和し、世帯全体の手取りを増やす効果が期待できるほか、法人は退職金の設定や赤字(欠損金)を10年間繰り越せるため、長期的な視点での安定した節税効果が期待できます。ただし、相続も見通したうえで法人設立ができる税理士のアドバイスが不可欠でしょう。
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新たに求められる資産の戦略は
「オーダーメード方式」
かつて「富裕層の常套(じょうとう)手段」として注目を集めたタワマン節税は、2022年の最高裁判決を境に大きく変化し、節税効果は大幅に縮小しました。
タワマン節税に、もはや“抜け道”はありません。計画的な資産戦略の一環として実態をともなう運用が必要です。ご家族の構成や資産状況に合わせた「オーダーメード」の相続税対策が不可欠となるため、まずは税理士と共に慎重なプランを練ることが大切でしょう。







