高校入学前に出された
ハイレベルすぎる「春休みの宿題」

 一番驚いたのが、高校入学前の春休みの宿題で「『チャート式』(注)の数学Iを終わらせてきてください」という課題があったこと。中学校を卒業したばかりの生徒に、高校1年生の全範囲の数学を独学で、しかも2週間で終わらせて来いとは――。

注:数研出版が刊行する、「受験生の定番」とされる参考書。

 当時の僕は「灘ではそれが普通なのか」と思って何の疑問も持たずに宿題をやりましたし、そもそも『チャート式(数学)』が高1数学の全範囲を網羅していることすら知りませんでした。ですが、大人になってから当時を振り返ると、想像を絶するほど高いレベルの学力が求められていたなと思います。

 こうして真面目に春休みの宿題を終わらせ、晴れて灘高生になった後、最初の数学の授業。教壇に上がった先生はプリントを2枚配布し、いきなりこう言いました。「授業時間の50分で解きなさい」。

 ですが、公立中時代の定期試験と同じような気持ちで問題を解き始めたものの、あれだけ受験勉強を頑張ってきたのに、問題の量が多すぎて全く終わらない。知らない数学記号も出てきている。

「公立中ではテストで怖いものなしだったのに、なんだこれ…」
「灘すげえ!高校の問題すげえ!」

 そう興奮したのを覚えています。

 のちに発覚したのですが、このときに渡された2枚のプリントは前年のセンター試験(現・共通テスト)の過去問。しかも科目は数学Iと数学II。数学IIはそもそも習っていませんし、宿題も出ていません。

 当時のセンター試験では、いずれの科目も試験時間は60分。本来であれば制限時間が計120分の問題を、高1になったばかりの生徒に計50分でやらせたわけです。

 めちゃくちゃな授業内容ですが、灘高校に合格して天狗になっていた僕の鼻を折るには、十分な効果があったと思います。