「それはなんだと思いますか?」

「やっぱり会社の改革を巡ってのことなのでしょう。とにかく母のやり方は旧態依然で、たとえば社員のボーナスひとつとっても、母は自分の気分でやってしまうんです。何十人分の評価を一方的に下して、額を決めていた。夫も私も『さすがにそれはまずいんじゃないか』と思ったのですが、メリーにとってはそれにこそ意味があったのだろうといまは思います。『あなたはよくがんばってるから、ボーナスの額を上げといたわよ』みたいなことが大切だった」

「『私はちゃんと見てるわよ』みたいなこと?」

「そうそうそう。その点はジャニーも同じで、彼もまた『自分はちゃんと見ている』『君はがんばっているからボーナスを上げる』ということを大事にしていた。それを『何時間働いたからいくら支払います』というふうにシステマティックにすることに抵抗感があったのでしょう。そういう改革をいくつかしようとしたところで、2人から猛反対に遭ってしまった。で、仕返しされることになりました」

カリスマ経営者が君臨する組織で
健全な会社改革を行う難しさ

「なんかようやく見えてきました。だから、これは本当に『華やかな芸能界』の話であり、『華やかなジャニーズ事務所』の話ではあるんですけど、一方では、たとえばかつて栄華を極めた町工場で起きているようなトラブルの話でもあるんですよね」

「ああ、そうですね。本当にそうかも」

「素晴らしい技術を持っていて、一代で大きな工場を築き上げた古い職人タイプの社長と副社長が、娘夫婦がいまどきのシステムを持ち込もうとしたことに憤慨して……みたいな話って実際にありそうじゃないですか」

「おっしゃる通りかもしれないです。私たちのやり方も悪かったのだろうといまならよくわかるんですけどね」

「違うやり方があっただろうと」

「あの人たちの取扱説明書を考えたら、他のやり方はあったでしょうね」

* * *

 こうして、会社改革をめぐって母親であるメリー氏との関係に亀裂が入ったジュリー氏。メリー氏はこの後、ジュリー氏と元夫に対して、常軌を逸した行動に出る。

 旧ジャニーズ事務所における「内紛」とも呼べる事態は、強烈な個性をもった創業者が君臨する企業体のガバナンスの難しさを如実に物語っている。