山:ハイブリッドスポーツと聞けば、CR-Zのようなイメージだとか、NSXをもう一度、という話が当然出る。ただ、今は「何でもやりたいことができる時代」ではありません。社内にある技術、部品戦略、プラットフォームの世代交代のタイミング、世の中の経済状況、お客様の購買力。そういった“山と谷”のタイミングがうまくシンクロしてくれないと、本当に世に出すところまではたどり着けません。

F:それはそうです。どんなに良いクルマができても、景気が悪くてみんなが貧乏だったら買えませんものね。

山:そうなんです。材料費や人件費が高騰し、コロナ禍で半導体不足も重なって、自動車業界に対する逆風は非常に強かった。一方で電動化の波に乗り遅れてはいけないという時間的なプレッシャーがある。企画を始めた段階では、「BEVはもの凄い勢いで、どんどん先に進んでしまうのだろう」と思っていました。だからハイブリッドでスタートを切る以上、「HEVが時代遅れになる前に、とにかく早く出さなくちゃ」という危機感が強かったんです。

初めから決まっていたのは「ハイブリッドで出す、時代遅れになる前に」

F:そうですよね。ほんの数年前までは、そんな雰囲気でした。ホンダだけでなく、それこそ世界中のメーカーが、電動化構想を打ち出していた。だから「ハイブリッドが時代遅れになってしまう前に」と。

山:はい。そこが一番のポイントです。ハイブリッドで出すこと自体は、企画当初から変わっていません。でもその価値がきちんとお客様に伝わるタイミングで出さなければ意味がない。「は?今更ハイブリッド?」と言われるようなタイミングでは絶対に出したくない。

 開発期間をむやみに延ばさないために、自分たちで制約条件を決めました。

「エンジンは新しく造らない」、「シャシーもゼロから造り直さない」。店の冷蔵庫の中にある素材だけで、どう最高の料理を造るか。お客様はすぐに来てしまう。しかもVIP、という前提で。

F:とても分かりやすくて良い例えですね。いまある食材だけでなんとかしよう、と。グランメゾンの話に出てきそう(笑)。