AMMモデルの基本を説明しよう。このモデルで想定される都市住人はすべて、都心の勤務地で働く必要があり、また通勤距離が伸びるにつれて通勤費用が増加するとしよう。そのような設定の元では、都心に近い場所の価値は高まるため、都心の地代が上昇する。そのため都心は便利だが狭い家に住まざるを得ず、一方で郊外では不便だが広い住宅に居住するという形で、通勤利便性と住宅の広さの間のトレードオフが生じている。

 一方で、このモデルは都市住人がすべて同質であるという仮定のもとに構築されている。したがって、すべての住人の付け値地代(編集部注/その土地に住もうとする住人が支払ってもいいと考える額)は共通であり、空間均衡(編集部注/誰もが現住地から引っ越しする動機を持たないという状態)のもとでは誰もがその都市内のどこに住んでも同様の満足度を得るという設定となっている。

 しかし、実際には都市にはさまざまな住人が居住している。例えば、都市の住人の間でその所得は大きく異なる。

所得が高くなるほど
通勤による機会損失が増える

 実は、所得の違いが、通勤費用の違いを通じて都市住人の住み分けを生じさせる可能性がある。

 まず、電車賃など通勤にかかる費用はどのような所得層にとっても共通であるため、所得が高い人にとっては、通勤費用は相対的に小さく、たとえ郊外からの通勤でも金銭的負担は小さい一方、所得が低い人にとっては、郊外からの通勤は金銭的負担が大きいだろう。

 その結果、所得の低い人は都心に、所得の高い人は郊外に居住するという住み分けのパターンが生じることになる。しかしこのメカニズムでは、都心に高額のタワーマンションが林立している現象を説明できなさそうである。

 一方で、経済学には機会費用という概念がある。人は何かを行うときにはそれを行うための時間でできたはずの別の行動を行うことができない。

 したがって何かを行う場合には、その間の別の行動によって得られたはずの利益の機会を捨てていると考えることができる。この捨ててしまった機会の利益を費用として考えるのである。

 このように考えると、通勤には大きな機会費用がかかっていることがわかるだろう。例えば時給1000円で働く人であれば、1時間かけて通勤することで、1時間分の労働時間を失うわけだから、通勤には1000円の機会費用がかかっているのである。