「あいつらマスクのことを、驚くほどネガティブに描写するんだ」と、サヒルは活気にあふれた口調で続けた。「マスクがまぐれでロケット会社と自動車会社を築いたと思ってるんだろうね」

 そしてサヒルは、ナカモトの正体を知るに至った経緯を説明した。

 2015年、サヒルがイェール大学の学部生だった頃、彼はスペースXの活動に感銘を受け、カリフォルニア州ホーソーンにあるロケット工場で在庫管理ソフトウェアを開発する夏季インターンシップに参加した。

「あれは素晴らしい経験だった」とサヒルは振り返る。マスクは週に3日ほどオフィスに来ていて、サヒルは廊下で彼をときどき見かけた。

 社内の表現で「予定外の急速な分解」と呼ばれているロケット爆発(編集部注/2015年6月28日)の後、サヒルは、スペースXの技術を向上させ、問題を解決する方法についてマスクがスピーチする場に居合わせた。「とても刺激的だった」とサヒルは言う。

 インターンシップ終了後、彼はビットコインとのつながりを持つようになった。

 サヒルはコンピューター科学を専攻しており、卒業論文では他の2人の学生と共同で、中央銀行がデジタル通貨を発行することを提案し、それを「フェドコイン」と名付けた。

「もし米国がビットコインの長所を取り入れて、ドルを改善できるとしたらどうだろう?」と彼は後に説明している。論文の謝辞は、「真のレジェンドであるサトシ・ナカモトに感謝する」という言葉で締めくくられていた(注4)。

ナカモトの論文とマスクの
口癖にあった共通点

 卒論の研究を進める中で、サヒルは暗号通貨に関する文献を読み漁った。

 その出発点となったのが、ナカモトがビットコインについて初めて記した、9ページのホワイトペーパーだった〔サトシ・ナカモトが2008年10月にPDF形式で発表した、ビットコインに関する世界初の論文は、一般的に「ホワイトペーパー(白書)」と呼ばれており、本稿でも同文書を「ビットコイン・ホワイトペーパー」あるいは単に「ホワイトペーパー」と表記する〕。

(注4)Sahil Gupta, Patrick Lauppe, and Shreyas Ravishankar, “Fedcoin:A Blockchain-Backed Central Bank Cryptocurrency,” (senior thesis, Yale Law School, May 10, 2017).