サヒルはナカモトの正体が有名なミステリーであることを知ったばかりであった。ビットコインの生みの親が書いた文章を読んで、彼はマスクの言葉遣いとの類似性に気づいた。

 どちらも桁数単位での推論〔何か物事を理解する際に、その規模や範囲を桁数の単位で大まかに捉え、極端に大きな差を意識することで、よりシンプルで本質的に物事を考えようとするアプローチ〕をするのを好み、「ものすごく(bloody)」という単語を使っていた。

 またどちらも、基本原則から議論を展開する傾向があった。ナカモトはお金を概念的に語っていたが、マスクも2000年代初頭、ペイパルで幹部だった頃に似たようなアプローチを取っていた。

 サヒルは、マスクがナカモトと同様にC++言語でプログラミングをしており、経済学や暗号学にも精通していることを知った。

 ナカモトもまた、ある種の使命感に基づく利他的な精神を示していた。「あれはマスクだ」とサヒルは私に言った。彼は次第に考え始めた――ビットコインの発明者は、実はずっと私たちの前にいて、その名声の輝きの中に隠れていたのではないか、と。

単刀直入な問いかけに
マスクの側近は言葉を濁した

 サヒルが大学を卒業したとき、彼はマスクの下で直接働きたいと決心し、CEO室での仕事を希望した。

 マスクに何度もメールを送った後で、サヒルはCEO室長であるテラーとの電話面接を受けることができた。サヒルは自分の経歴をテラーに話したが、テラーは彼が適任ではないと言った。テラーが探していたのは管理部門のアシスタントであり、サヒルには自分で会社を立ち上げた方が良いとアドバイスした。

「それは良いアドバイスだった」とサヒルは言う。

 テラーとの電話が終わりに近づいたとき、サヒルは思い切って尋ねてみた。

「イーロンはサトシなんですか?」

「15秒間、テラーは何も言わなかったんだ」とサヒルは私に言った。「その後で彼の口から出てきたのは、『えっと、何て言えばいいんだろう』という言葉だった」