西村の『1%の努力』(ダイヤモンド社、2020年)や『気にしない生き方』(SBクリエイティブ、2024年)が説くのは、「いやなことから逃げる」「他人に振り回されない」「欲望をコントロールする」といったマイナスをゼロにする論理ばかりである。
堀江の著作には1を100にする方法が述べられているとすれば、西村の著作はマイナス100を0にする方法を説いている。だからこそ、生きているうえで多くのマイナスを抱えた生きづらい「庶民」の人びとに届く。
それは「転生」の論理にも似た、報われるための「底上げ」をするかのような作業である。
同じ努力をしても、そもそも生きづらさを抱えている人は、他人よりもマイナスからのスタートであるように感じる。
そこで「転生」も「ひろゆき」の論理も、マイナスをゼロにする、つまり報われやすい環境に移動することを説く。
マイナスをゼロにするために、努力が報われる状況になるために、重要なのはその方法に「気づく」ことである。そう彼は説く。
抜け道に気づいたり、一歩引いて頑張りどころに気づいたり、ムダな努力をしないために気づくべき点はたしかにある。
コミュニケーションが苦手なら、人と喋らなくて済む場所に。苦労することがあるなら、抜け道を探す――このような方法に皆は「気づいていない」と説くからこそ、彼は人気なのである。
「議論」よりも「論破」のほうが
気づきを与えてくれる
『考察する若者たち』(三宅香帆、PHP研究所)
そしてこれは、彼の人気を象徴する、論破と呼ばれる話法にもつながる。
論破とはつまり、「正解」を提示することだ。議論とは一般的に、異なる立場の人間同士が意見を対立させ、すり合わせたり戦わせたりする場である。が、論破とは、対立する意見のなかで「正解」を提示しようとする試みである。
悩み相談でも、議論でも、論破によってみんなが「気づいていない」正解を説く。あなたはちょっとしたコツに「気づきさえすれば」報われる。正解を提示されることを現代の人びとは最も求めている。そんな時代の流れを彼は理解しているのだろう。
掲示板の創設者である彼がSNS時代に人気を博すのは、そのような方向転換があったからではないか。「気づいていない」人は努力が報われない。だからこそ生きづらいのだと、彼は説くのである。







