大規模火災が発生した香港の大埔の高層マンション(12月4日撮影)大規模火災が発生した香港の大埔の高層マンション(12月4日撮影) Photo:PIXTA

 だが、皮肉なことに、火災からこの間、市民の間では、民主党所属の政治家で現在獄につながれている林卓廷・元立法会議員氏が、2017年の立法会でまさに今回の火災の根本的問題となった「ビルの運営事務局と改修業者との利益供与汚職」を暴露し、政府の対応を求めた時の動画が、狂ったようにシェアされた。

 さらに、今回の火災では、政府高官がまだ延焼が続いている中でわれ先にと、「延焼の原因は竹の足組」と発表したことに対し、「市民の目をバカにするな。どう見ても竹ではない、防護網が燃えている」という声や、建設業界のプロたちの声を拾い上げて報道、最終的に政府がその言を再検討する結果を巻き起こした独立メディアの活躍が注目された。

 そんな独立メディアは、かつて黎氏の「アップル・デイリー」など、国安法によって職場を追われたジャーナリストたちによって運営され、読者らの資金支援を受けながらネットをベースに活動し続けている極小メディアばかりだ。今や、政府の顔色を伺う「安全第一」の大手メディアはそんな独立系メディアの報道の後追いをするしかなかった。

 人びとは、黎被告の有罪判決に真相を抉り出してくれるメディアがかつて存在していたこと、そして立法会には世の中の不正を暴き出し、政府の責任を追及した民主派がいたことを今、辛い気持ちで思い起こしている。香港は今後、どんなふうに操られていくのであろうか。

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