拡大した空域の名称も、それまでの「GAICHO(ガイチョウ)」から「MAGNUM(マグナム)」に変更されていた。ガイチョウは「有害な鳥」を意味するという関係者の証言もあるが、マグナムの名称の意味は定かではない。ただ、マグナムという言葉自体には火薬量が多く威力のある弾薬や大型拳銃という意味もあり、より勇ましい名称に変わったといえる。

 この空域の拡大が、羽田新飛行ルート実現のために米軍が譲歩した見返りだった可能性があると聞きつけてきたのが、国交省を担当した経験から横田空域の存在に関心を寄せていた社会部の松本惇だった。

 松本からこの話を耳打ちされたわたしは、事実ならすごい特ダネだと驚く一方、裏取りが相当難しいだろうと直感的に思った。

 日本政府内で、日米の交渉内容はトップシークレットに近い。軍事に絡む米軍との交渉ならなおさらだ。交渉内容を知る当事者たちが簡単にしゃべるとはとても思えなかった。

 わたしも旧知の国交省幹部に探りを入れてみたが、「その領域はディープ過ぎる。内実はごく一部の人間にしかわからない。ハードルは高いよ」と笑われてしまった。

日米同盟が続く限り
管制主権は米国が握り続ける

 それでも松本は、交渉の内実を知っている可能性のある現役・OBの官僚を訪ね歩くなどし、しらみつぶしに当たっていった。その数は20人を超えた。

 そして、ある政府関係者から次のような証言を引き出す。

「〔横田空域の管制と三沢の空域拡大が〕交換条件だったら、〔合意する時期を〕一緒の日付にしたりするが、同時性はない。そんなにストレートじゃないが、貸し借りのようなもの。互いの事情をおもんぱかって譲れるところを譲ってきたという歴史の中に入る……」

 オブラートに包んだような証言だが、内容は衝撃的だ。

 横田空域は元々、日本の領空だ。日本側で使う必要が生じれば、無条件で返してもらうのが当然だ。それなのに、米軍は自分たちの領空のように取引のカードに使い、日本政府もその取引に応じてしまったということだろう。