だから皆、成瀬に憧れる。自分にはできない偉大なる理想の達成を、最後まで見届けたくなる。その魅力を別の人にも伝えたくなる。現実世界の推しに抱く感情と、ほとんど同じだ。

 実際、成瀬シリーズのファンは、成瀬という人物に魅了されている。本の帯に寄せられている著名人のコメントも、書店に貼られているPOPの文言も、成瀬に対する愛しさを言語化したものがとても多い。

“ファンによる推しの活動報告集”という珍しい形の小説

 実は成瀬を推しているのは読者だけではない。作中の登場人物も成瀬推しだ。

 成瀬シリーズの多くのエピソードは、作中で成瀬に振り回された、あるいは関わりをもった人たちが、最終的に彼女に魅了されるプロセスを一人称で書いた体験記の形式をとっている。要は、ファンによる推しの活動報告集だ。以下は登場人物のセリフ。

「成瀬、あんた最高に映(ば)えてるよ」
「これからもずっと、成瀬を見ていられますように」
「成瀬さんは太陽みたいだ」
「成瀬あかり史を一番長く見届けられるのはわたししかいない」

 作中の登場人物は、性別年齢問わず成瀬推しをはっきりと言語化する。読者はその彼らに心を重ねて本を読む。同じ成瀬推しとして、推し友として。

成瀬の優しさとは「他者に変わることを強要しないこと」

 ただ、個性的なだけでは人は推されない。成瀬はとにかく優しいのだ。

 筆者が書店で見かけたポスターにあった某書店員のコメントは、成瀬の優しさを端的に表していた。「(成瀬は)誰ひとり置いていかない」

 成瀬の周囲には、自己肯定感が低い者や迷いのある者が何人も現れるが、成瀬は彼らに決してダメ出しをしない。変わることを強要しない。To Doをリスト化しない。自己啓発要素も説教要素もゼロ。

 成瀬のそのような態度は、作品が読者に取る態度とも同じだ。読者側に意識変革を促すとか、覚醒させるとか、危機感や焦燥感を芽生えさせるとか、そういう「しんどい」ことが作中では一切起こらない。人と人とのやり取りが、ただただ心地よく進む。ヒリヒリ感がまったくない。