ヤマト運輸のセールスドライバーの給与は、大きく分けて、基本給とインセンティブ給と呼ばれる運んだ個数に応じて支払われる能力給、それに残業代の3本柱から成り立っている。このほかにもいくつか手当はあるのだが、先の3つで全体の7~8割を占める。

 ヤマトのドライバーの給与額にとって、大きな変動要因になるのはインセンティブ給である。もし、法人顧客の多い東京の丸の内のオフィス街が担当エリアなら、1カ所で10個以上の荷物を降ろすことも少なくない。そうなると、午前中だけで、200個どころか、300個の配達も可能になる。そうすれば、インセンティブ給が最大で20万円前後に跳ね上がる。

 小谷がこの日、最初に運んだのは、冷蔵庫に積んでいた食材の入った段ボール4個。台車に積んで運んで行った。届け先は在宅しており、無事4個が《配完》となる。端末には、上から、《持出》、《配完》、《持戻》、《受引渡》――とあって、最後に《残》がある。持出111個で、完配が4個なら、残は107個である。

 しばらく走ると、フォルクスワーゲンの赤いビートルが正面から走ってきて、小谷の集配車とすれ違いそうになる。その手前で、小谷が窓を開けて叫ぶ。

「○×さん、今日はクール宅急便のお届けがあるんですが、どうしましょう」

 車を停めた50代の男性は、「じゃぁ、ここでもらっちゃいますよ」と言って、その場で3個の荷物を受け取る。

「あぁ、カニかぁ。これだけ多いと、いったん家に帰ります。タイミングよく小谷さんに会えてよかった」

 それを見て、私はすごいなぁ、と感心した。

 10年も同じエリアを配達していれば、配達先とは顔なじみにもなるだろう。私だって、家に荷物を運んでくれるヤマトや佐川急便のドライバーの顔は覚えている。しかし、今日運ぶ荷物と、運ぶ先まですべて頭に入っているとは恐れ入った。そう小谷に告げると、

「いやいや、今の荷物は、昨日、不在で運べなかった分で、しかもクールだったから、たまたまはっきり覚えていたんですよ。今日はどうしても“落とした”かったんで、出がけに会えて助かりました」