このことは現代人である我々の都合に合わせた簡易処置にすぎないので、実際に古代エジプト人たちがどのようにヒエログリフを発音していたのかは、現在でも正確にはわかっていないのである。

古代エジプトの同音異義語対策は
漢字の「へん」に似ていた

 また、母音を飛ばして表記すると、ひとつ大きな問題に遭遇してしまう。それは意味は異なるが、同じ文字列・同じ発音の単語が存在することになってしまうということだ。

 たとえば、日本語で「すずき」と発音しても苗字の「鈴木」なのか魚の名前の「スズキ」なのか判別がつかないのと同じだ。あるいは「あめ」と言っても空から降って来る「雨」なのかお菓子の「飴」なのか区別がつかないのである。

 古代エジプト人たちは、この問題を解決するために「決定詞」というものを用いた。つまり同じ発音の単語でもそれが人を表すのであれば、語尾に発音しない人を表す文字を、動物を表すのであれば同じく発音しない動物の文字を置いたのである。

 具体例を挙げてみると、メル=MRという単語には、主に「愛」と「ピラミッド」のふたつの意味があるが、語尾に人間の文字を置くことでそれは「愛」を意味し、ピラミッドの文字を置くことで「ピラミッド」を意味するとわかるのである。

 先の日本語の例で言うと、苗字の「鈴木」の最後に人間の記号を、そして魚の名前の「スズキ」の最後に魚の記号を置くようなものだ。

 少し違うが、日本語の漢字の場合のように木に関する漢字に木へんを使用したり、金属に関する漢字に金へんを用いたりするのにも似ている。時代と地域は違えど、人間は似たような発想をするものだと思う。本当に不思議だ。

絵心溢れるヒエログリフが
古代エジプト文明を作り上げた

 ヒエログリフの魅力のひとつはその写実性にある。

 鳥の種類だけでも30種類ほどあるし、哺乳類も同じく30種類ほどある。そしてトキ(朱鷺)はトキに見えるし、ハゲワシもハゲワシであるとひと目で判別できる。キリンもゾウもカバもひと目見てそれとわかるのである。人間を描く際にも老若男女の区別は明確である。