確かにジャイアンツは強かったし、僕らだって“勝ちたいな”とは思っていました。でも、生意気な言い方になるかもしれないですけど、僕らよりも、広岡さんや森さんの方が、ジャイアンツに対する意識は強かったような気がしますね」

 大矢の肌感覚からすれば、「選手たちよりも、当の広岡自身がジャイアンツコンプレックスを抱いていたのでは?」ということだ。

思いはひとつ
「V9監督・川上哲治を超えること」

 改めて広岡に単刀直入に問いかける。

――実は、選手たちよりも誰よりも、あなた自身が「ジャイアンツコンプレックス」を抱えていたのではないですか?

 この問いに対して、広岡は憤然として答えた。

「コンプレックスなどあるわけがない。あるのは“川上さんを超えたい”という思いだけ。V9を達成した川上さんを超えること。それが私の心にあったこと」

 広岡に話を聞いていると、しばしば「川上さん」が登場する。前人未到の9年連続日本一を達成した読売ジャイアンツ監督・川上哲治である。

 現役時代から両者の間には確執があり、誤解を恐れずに言えば、広岡は川上に追放される形で現役引退を余儀なくされた(編集部注/広岡が打席に入っていたとき、サードランナーの長嶋茂雄がホームスチールを試み、せっかくのチャンスを潰したことが二度あった。ベンチに戻った広岡は、「そんなにオレのことが信用できないのか!」と怒りをあらわにし、試合途中にもかかわらず帰宅。川上との対立を決定的なものとし、現役を引退する引き金となった)。

「監督となった以上、V9以上のことをしなければファンが許してくれない。“絶対に川上さんの上を行く”という思いで、私は勉強を続けた。ヤクルトが優勝したとき、選手たちはみな喜んでいた。でも、私の見ていたところは、さらにその上だった。選手たちとは見ていたものが違うんです」

 ここまで饒舌に語る広岡は、とても珍しかった。

 改めて、広岡に問う。「では、あなたにはジャイアンツコンプレックスはなかったのですか?」と。やはり、その口調は端的で、そして強い。