胸の内に芽生えた小さな疑問を本人にぶつけている。
「練習では豪快なスイングで特大ホームランを連発しているのに、試合になるとコンパクトにバットを振っていて、明らかにヒットしか狙っていないんです。だから思わず、“何でヒットしか狙わんの?大きいのを狙えばいいじゃん”って言ったんです……」
このときの吉田の答えを、山田は今でもハッキリと記憶している。
「……僕がそう言ったら、“今はまだ実績もないので、信頼を勝ち取るために確実にヒットを狙っていきます”って彼は答えました。このときの彼の言葉はすごく記憶に残っています。その後すぐに4番になったんですけど、6月ぐらいには普通に大きい当たりを打つようになっていましたね」
3年生エースの山田、1年生で四番を務める吉田の活躍もあって、この年、敦賀気比高校は11年ぶり5度目の甲子園出場を決めた。福井県大会での吉田の打率は.615だった。
このとき、チーム内には1つの約束事があったという。吉田に回せ――。
たとえ劣勢であっても、たとえビハインドの場面であっても、吉田に回せば何かが起こる。吉田に繋ぐことができれば点数を挙げることができる。入学してわずか3カ月で、すでにチーム内には絶大なる信頼感が芽生えていた。
『決断―カンボジア72時間―』(吉田正尚、長谷川晶一、主婦の友社)
WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で見せた勝負強さは、高校1年時点ですでに確立されていたのである。
甲子園では大会7日目となる8月16日、東京の帝京高校相手に1対5で敗れた。エースの山田が5失点を喫し、敦賀気比高校は初戦で涙を呑んだ。0対5で迎えた8回裏、二死二塁の場面で打席に立ったのが四番の吉田だった。
この場面でも、持ち前の勝負強さを発揮してレフトにタイムリーヒットを放ち、チーム唯一の得点を挙げた。
「甲子園での経験を生かし、新チームで一丸となって頑張りたい」
試合後、吉田は悔しさを押し殺しながら、報道陣にこんなコメントを残した。







