「高校3年夏、最後の大会で負けた日の夜だったと思うんですけど、寝る前に正尚が私のところに来て、“もう、野球辞めるわ”って言ったんです。まさか、そんなことを言うなんて思っていなかったから、私もビックリしました……」(母・仁子さん)
この話には続きがある。
「……でも、一晩寝た次の日の朝、“やっぱりやることにしたわ”って言うんです。前の日の落ち込み具合が嘘のように、何事もなかったかのように、あまりにもケロッと言うから、私もまたまたビックリしちゃいました(笑)」
「あの1カ月」があったから
野球の楽しさを再認識できた
改めて、吉田に問う。
『決断―カンボジア72時間―』(吉田正尚、長谷川晶一、主婦の友社)
――今、改めて「あの1カ月」を振り返ると、どんな思いですか?そんな問いに対して、吉田は冷静に言い切った。
「自分から逃げていたんだと思います……」
続く言葉を待った。
「……寮生活をして、ずっと野球に打ち込んでいました。けれども結果が出なかった。そこでようやくつかの間の自由を手に入れた。それで現実から目を逸らそうとしていたのかもしれないですね。
大学進学が決まっていたということもあるけど、1カ月経ってから久しぶりに身体を動かしていると、“野球は楽しいな”という感覚がよみがってきた。今から思えば、あの期間があったから、一度リセットすることができたし、その後、再び野球に対する思いが強くなってきたのかもしれないですね」







