もう一つの重要な前提は、上司が部下の能力を正確に把握していることです。

 マネージャーが誰がどういう能力を持っているかを知らなければ、「誰を伸ばすか」を判断できません。その場合、成果は結果物で見ることができますが、プロセスは面談でしっかりヒアリングする必要があります。

 ある成果を出すのにどのくらい時間をかけたのか、どこで苦労したのか、何を学んだのか。こうした情報を丁寧に収集することが、適切なアサインメントの基礎となります。

上司の仕事は
「信じて任せ、最後はなんとかする」

 実はほかならぬ私自身も、かつて「自分がやったほうが早い」問題で悩んでいました。

 お客様からのメール問い合わせに、私なら10分で返信できるけれど、経験の浅いメンバーは1時間かかる。お客様は早い返信を期待しているし、上司としても早く返させたい。当時はいろいろな仕事が重なり自分としても余裕がない状態でした。

 そんなとき、当時の上司から言われた言葉が転機となりました。

「どこかで勇気を持って任せないと、この悪循環からは抜けられないよ」――それで、半信半疑でしたが、思い切って部下に仕事を任せてみました。すると、驚くべきことが分かったのです。

 10分でメールを返さなければならないというのは、単なる思い込みでした。1時間かかっても、お客様は怒らなかったのです。

 私は勝手に基準を作り、自分が成果を出してきたやり方を無意識に部下に押し付けていたのです。そして、部下に仕事を任せてみると、メンバーは私とは違う方法で信頼関係を築き始めるのがわかりました。

 私とは違う持ち味を活かして、思った以上にいろいろな工夫をしているのです。まだできないと思っていた人が、私とは違う種類の信頼関係を、その人柄で築いていく。思いがけない成果を出す姿を何度も見ました。

 それで、私は、部下を育成する際に、自分のコピーを作ろうとしていたことに気づきました。仕事の進め方も、10分で返すということも、自分がかつてそれで評価されてきたからこそ、同じやり方を求めていた。でも、当たり前なのですが、いろいろなやり方で関係構築ができることを思い知ったのです。

 信じて任せるというのは最初は怖いものです。結果責任は自分が負っているのですから。でも、「何かあったら自分が出ていけばいい」「『プチ炎上』してもどうにかできる」と覚悟を決めることで、任せられるようになりました。