パラレルキャリアによる「傾聴力」「共感力」「発信力」
経団連の調査や人事白書など、さまざまな調査で企業が最も重視する要素として「コミュニケーション力」が挙げられており、「コミュニケーション力」の一般的な定義は「相手との関係を円滑にし、意思疎通をスムーズに行うための総合的な力」となっています。「聴く力」と「伝える力」だと言ってもよいでしょう。「伝える力」と言っても、単に一方的に話す力(あるいは文字で伝達する力)ではなく、相手にわかるように伝えることがポイントです。
「コミュニケーション力」とは、単に自分の利益を得るためだけに、相手を一方的にやりこめる力ではなく、Win-Winの結果に導くための力だと言い換えることができます。
相手の立場も理解したうえで、適切な提案を行うことができて初めて、スムーズな協業が可能となりますが、多様な視点への理解力を、同一の価値観を持つ人の集まりになりがちな社内で身につけることは容易ではありません。
一方、パラレルキャリアの場は、自身が所属組織の中で磨いてきたコミュニケーション力を発揮して、貢献する場であると同時に、普段会わない人(弱い紐帯)との交流、意見交換を通じて、新たな発想を自身に取り入れ、コミュニケーション力を磨く絶好の機会となります。
パラレルキャリアがコミュニケーション力向上に及ぼす効果として、私は次の2点を挙げます。
1つ目は「弱い紐帯」との協働を通じて、「傾聴力」「共感力」を向上させる効果です。
パラレルキャリアはバックグラウンドの異なる人たちの集合体の中での活動なので、共通言語が異なることもあります。たとえば、「社員数」というシンプルな用語ひとつとっても、会社によって「整員数」「人員数」「成員数」など異なる用語が使われます。評価に関しても、上司と部下がミーティングを行ったうえで確定している企業もあれば、そうしたプロセスを踏むことなく、上司が決定している会社もあります。
私自身、37歳のときの初めての出向で、自身が「当たり前」と思っていた仕事のやり方が必ずしも「当たり前ではない」ことを知りました。55歳のときに入学した社会人大学院で、ビジネス領域以外の医療・福祉・教育関係の人たちとの交流やプロジェクト活動を通じて、全く異なる働き方・生き方や視点があることに気づきました。
バックグラウンドが異なる相手を理解するためには、その人の言葉の背景を知るために、「丁寧に聞くこと」が必要となり、「傾聴力」が鍛えられます。こうした「弱い紐帯」との交流は、多様性に対する理解を深め、「共感力」を磨く格好の場です。
2つ目は「弱い紐帯」との協働を通じて、「発信力」を向上させる効果です。
同一性の高いコミュニティで通じる「以心伝心」や「暗黙の了解」は、社外の人との交流では通用しません。わかりやすい言葉で、誤解のない表現をする必要もあるため、必然的にシンプルで的確に表す「表現力」が磨かれることになります。異なる価値観を持つ人たちに自分の思いを正確に伝え、一つの方向に進めていくために「プレゼンテーション力」や「説得力」も磨かれるでしょう。
価値観が異なり、役職の上下関係のない中で、プロジェクトを効率的に運営することは容易ではありません。そうした難しい環境下で、ゼロベースから関係を構築し、協働作業を進めていく取組みが、「リーダーシップ力」の向上にもつながります。
パラレルキャリアの場で磨いたコミュニケーション力は、本業での貢献度を高めることにもつながることに加えて、ポータブルスキルとして、自身の将来にも大きなメリットをもたらします。パラレルキャリアなど、自社を越境した活動の効果を最大限発揮させるには「まわり道」のように感じても、「基本から応用へ」という段階的なプロセスをしっかりと踏むことが大切だと私は思います。









