良い条件の話があれば別ですが、それほど期待していたわけではなく、結局研究職に就くことはありませんでした。研究は好きですが、学生の相手は好きではありません。

 長女の菊乃は、大学卒業後に都内の国立大学で教員をしている男性と結婚しました。家を継ぐのが長女の使命なので、夫も両親との二世帯同居は了承していたようです。しかし菊乃は、両親とは別に暮らすことを望んでいました。

 次女の百合はアメリカの大学に進学していましたが、卒業後も帰国するつもりはなく現地の男性と結婚するとの話でした。

「お父さんとお母さんの面倒は、葵ちゃんが見てくれると助かる」

 実家に戻りたくない姉たちは、そう言って私がこの家に残ることを理由に勝手気ままな人生を歩み始めていました。それでも私は仕事をする気も結婚する気もなく、この家に住み続けることを望んでいたので、姉妹間の利害は一致していたのです。

姉夫婦に部屋を奪われ
屋根裏部屋で生活する羽目に

 姉たちが家を出た後、私は広い屋敷を独り占めし、大学院に通いながら、悠々自適に生活していました。

 ところが上の姉は、しばらくして子どもを連れて戻ってきたのです。

「やっぱり実家はいいよね。田舎はキツイ……」

 姉夫婦の家は東京にありますが、ここに比べたらずっと不便で住みにくいに違いありません。確かに、この家で育った姉が満足できる環境では決してないでしょう。

 夫は国立大学の教員なので給料は安いし、戻ってきたくなる気持ちもわからないではありません。

「来月には光一さんも来るから」

「え、お姉ちゃん、もしかしてここで暮らす気?」

「ええ。子どももできたしね」

「そんな、私はどうなるのよ」

「屋根裏を使えばいいじゃない」

「あんな狭いところ……」

「嫌なら自分で部屋探しなさいよ。こっちは子どもがいるんだから」

「ちょっと、話が違うでしょ。戻ってくるつもりないって言ってたじゃない」

「事情が変わったのよ。そもそも、お父さんもお母さんも私たち夫婦と暮らすことを望んでるんだから」