YouTubeで謎の経営者が喧伝する「出張旅費規程で節税」術の危険な落とし穴、税務署は“事実関係の疑問追及”にはめっぽう強い!Photo:PIXTA

YouTuberが喧伝する「税理士が教えない節税対策」の代表格である出張旅費規程。中小企業経営者で利用している人も多いが、そこには大きな落とし穴が存在する。新連載『富裕層必見! 資産防衛&節税術』の第1回では、中小企業経営者の税務に詳しい税理士が詳しく解説する。(税理士 吉澤 大)

出張旅費の「渡し切り支給」と実額の差で節税する
節税法が何故危険なのか

 YouTubeやTikTokで、税理士だけでなく、謎の経営者が、「税理士が教えてくれない節税対策」という常套句と共に、「こんなオトクな節税対策がある」と訳知り顔で語るのを目にすることがあるだろう。

 その代表例が、「出張旅費規程」による節税対策である。

 出張旅費規程とは何か。役員や従業員が業務のために出張する際、交通費、宿泊費、日当などの費用をどのように支給するかを定めた社内ルールのことだ。本来であれば、出張に伴う宿泊代などについては、領収証などを添付して、実際にかかった費用を会社に申請することで、経費精算が行われる。会社でも、その「実費精算」に基づき、税金計算上、損金算入されるのが原則だ。

 しかし、頻繁に出張が行われる場合、実費精算をするのは手間がかかる。その事務負担を軽減するため、出張にかかる費用については、出張旅費規程というルールに基づいた一定の金額を支給して、実費による精算を要しないこととする会社も多い。

 この制度を使った「節税」策が跋扈している。仕組みはこうだ。

 この出張旅費規程による「渡し切り」の支給が行われた場合、仮に実際にかかった費用がその額を下回ったとしても、会社はその差額の返還を求めることはないが、本人に対する給与とはされずに、所得税は非課税とされる。一方で、支給する法人側でも、その渡し切りの支給額全額の損金算入が可能となるのだ。

 この実費と渡し切り額との差額については、支払った法人側では損金になりながら、もらった側では非課税でもらえるという「節税のタネ」が生まれることになる。

 さらに言えば、その非課税で受け取った差額については、社会保険料の対象にもならない。多額の税金や社会保険料の負担に悩むオーナー社長にとっては、出張旅費規程がまるで無から有を生み出す「打ち出の小づち」のように思えるだろう。

 しかしYouTuberなどが盛んに勧めるこの節税法には、大きな落とし穴がある。注意しなければ税務調査で思わぬ指摘を受けかねない。その理由と対策について、次ページから詳しく解説していこう。