むしろお金を手にしたことで働く意欲を失ってしまったり、親の財産を浪費してしまったりするようなケースもあります。

相続が家族の不和を生んだり
不本意な老後につながることも

 さらに厄介なのは、子どもが複数いる場合です。

 相続をめぐってきょうだいの間で争いが起きてしまい、関係がこじれてしまうことも少なくありません。私も患者さんのご家族との関わりのなかで、そうした光景を何度も目にしてきました。

「いや、うちの子に限ってそんなことはない」と思いたい親御さんの気持ちもわかりますが、親と子は別の人格ですし、子どもに配偶者がいる場合は話が複雑になりがちです。

 最初は「親のお金なんかいらないよ」と言っていた子どもでも、配偶者の一言で態度が変わり、「ここで妥協してはいけない」とたきつけられるために話が厄介な方向に進んでしまうこともあります。

 結果的に、きょうだい同士で財産をめぐって意見がかみ合わないことが増えてきます。たとえ遺言に「均等に残す」と書かれていても、財産を均等に分けるのは案外難しく、それぞれに不満が出てくるものです。

「兄さんのところは家を買ったときに援助してもらったじゃないか」

「あの土地とこのマンションの評価額では、差がありすぎる」

「私たちはよくお父さんの様子を見に行っていたんだから、多くもらうのは当然」

 このようにさまざまな主張が飛び交って、話がまとまらなくなることもあります。

 つまり、親がどれだけ子どもを信頼していたとしても、財産が争いの種になってしまうことはけっして珍しくないのです。

 私は、患者さんたちの間でこうした家族の争いがどんどんこじれていく様子を何度も目の当たりにしてきて、「やはり、子どもには財産なんて迂闊に残すものではないな」と強く思うようになりました。

 さらに言えば、自分たちの取り分を増やしたいがために、親の介護費用や医療費を削ろうとする家族もいます。

 たとえば、親が自宅を売って高級老人ホームに入りたいと希望しても、子どもが財産の目減りを気にして反対し、その結果、親の希望とは異なる施設に入らざるを得なくなるケースもあるのです。