ちょっと難しい話になったので、僕なりに補足説明をしてみようと思う。

 免疫細胞療法として最初に開発されたのは、皮膚がんの腫瘍(しゅよう)を切除し、そこに含まれるT細胞を1カ月くらいかけて何十億個にも増やして患者に注射する「腫瘍浸潤リンパ球療法」。アメリカで、2024年に皮膚がん(悪性黒色腫)の薬として承認された。

CAR-T細胞ががん細胞を攻撃する
難治性のがんを治療する最新療法

 次に登場したのは、患者から採血で取り出したT細胞にがん細胞を攻撃するT細胞受容体を組み込み、投与するTCR-T療法。T細胞受容体はいろいろな病原体に対応するため数億種類ぐらいあり、がん細胞の認識力が高いTCR遺伝子を見つけるのは簡単ではない。

 そのため、T細胞とは別の免疫細胞が作る抗体の配列を利用した遺伝子を設計して、CAR(編集部注/chimeric antigen receptor・キメラ抗原受容体)と呼ばれる特殊なタンパク質を作り出すことができるよう、T細胞を改変する。

 CARはがん細胞などの表面に発現する特定の抗原を認識し、攻撃するように設計されていて、CARを作り出すことができるようになったT細胞をCAR-T細胞と呼ぶ。このCAR-T細胞を投与することにより、難治性のがんを治療するのがCAR-T療法である。

「CAR-T細胞は“生きた薬”なので、理論的には1回の投与で完全にがんを消し、かつその後も体内に長くとどまって、がんの再発も抑えてくれます。抗がん剤や骨髄移植で治らなかった急性リンパ性白血病の患者に対する臨床試験では、CAR-T療法を行った患者の約80%で白血病が完全に消失、悪性リンパ腫患者の約60%でリンパ腫が完全に消失という結果が出ています」(龍谷教授)

 物凄い治療効果じゃないか!そんなに効果の高い治療法なら、なんでもっと普及しないのかと正直に思う。しかし、現在、日本で保険適用となっているのは、再発の悪性リンパ腫、B細胞性急性リンパ芽球性白血病、多発性骨髄腫などの血液がんで、いずれも抗がん剤、骨髄移植などの標準治療で治らない難治性のがんに対してのみということだ。