【元日産COO志賀俊之】自動運転で日本が敗北寸前?先駆者なのに米中に出遅れた真因と「逆転の切り札」2013年11月、安倍晋三首相が公道での自動運転車に試乗。トヨタ自動車の豊田章男社長、ホンダの伊東孝紳社長と共に筆者も走行デモに立ち会った(肩書は全て当時) Photo:JIJI

かつて荒唐無稽といわれた未来が、いま現実に変わり始めている。米国や中国では、運転手不在のロボタクシーが街を走り、サービスとして定着しつつある。翻って日本は、運転手同乗の実証段階にとどまり、米中に大きく水をあけられている。自動運転の最先端を走っていたはずの日本は、なぜ失速したのか。連載『志賀見聞録 自動車産業の半世紀とミライ』の第7回【ミライ編2】では、日本の自動運転の歩みを振り返りつつ、フィジカルAI時代の自動運転の競争構図を読み解き、日本の勝ち筋を探る。(日産自動車元COO〈最高執行責任者〉 志賀俊之)

>>第1回【過去編1】「ゴーンさんが羽田空港で逮捕されたらしいです」(2018年11月9日)から読む

>>第6回【ミライ編1】ホンダがEV戦略見直しで「2.5兆円損失」を発表した日(2026年3月12日)から読む

信号機も運転免許証も消える!
2050年モビリティ業界の衝撃予測

 今から10年前、あるシンクタンクの依頼で、「2050年のモビリティ社会」というテーマで講演した。

 当時、自動車業界で使われ始めていたCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング&サービス、電動化の四つの技術トレンド)を手掛かりに、「50年には姿を消しているもの」として、ガソリンスタンド、信号機、自宅の駐車場、そして運転免許証を挙げた。

 この予測は、「自動車業界の人がとんでもないことを言っている」と、ちょっとした話題になった。

 当時の想定はこうだ。50年には、クルマは電気や水素で走るのが当たり前になり、人がハンドルを握らない「レベル4以上の自動運転」が普及するので、運転免許証は不要となる。移動は、オンデマンドで呼ぶシェアカーが主流となり、個人が自宅に駐車場を持つ必要もなくなる――そんな大胆な未来像を描いた。

 正直に言えば、さすがに大胆過ぎるかなというためらいもあった。だが、それから10年で状況は一変した。

 モビリティ業界はいま、まさに100年に1度の大変革の真っただ中にある。米国や中国の主要都市では、運転手のいないロボタクシーが現実の運行サービスとして定着し始めた。24年10月には、テスラ最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスクが、ハンドルもペダルもない「サイバーキャブ」を2~3年以内に投入すると表明し、量産に向けた準備を進めている。

 わずか10年前に夢物語と見られていた世界が、現実になりつつあるのだ。

 ここで少し、自動運転に関する日産自動車の歩みについて振り返っておきたい。