肩の力が入ってしまうと
戦場で冷静な判断ができない
私の指導教官は、スキンヘッドに隆起した筋肉、そして鋭い眼光を放つ、海兵隊出身の「歩くミスター威圧」。しかし口癖は、意外にも「遊び心を持て」でした。
「義務感ばかりじゃ、頭も体も固まる。柔軟さがなければ、戦場でも生き残れない」
彼の口調は厳しいけれど、その言葉には余白がありました。
これはあとから知ったのですが、彼は日本の剣士・宮本武蔵を敬愛し、『五輪書』を愛読していたのです。文化歴史学者のヨハン・ホイジンガも「真の文化は、遊びがなくては成立しない」と述べています。
たとえば車のハンドルにも「遊び」があります。あの「ゆるみ」があるから、車はなめらかに動き、急な状況にも対応できます。肩に力が入りすぎると、視野が狭まり判断を誤るのです。
成果が出るのは、決まって肩の力が抜けているとき。緊張が高まる場面ほど、遊びのある心が冷静さと判断力を支えるのです。
「本当にそうか?」という
自問自答が問題解決につながる
リラックスした環境をつくる一方で、鋭く尖らせるべきは「批判的思考」です。
工兵は、全身の感覚と理性を総動員させ、現場をとらえます。たとえば、次のようにです。
・ぬかるんだ土の匂いや粘り気で、地盤の安定性を見極める
・爆風で吹き飛んだ火薬の形状や残り香から、爆発物を特定する
見て、聞いて、触って、場合によっては舌で舐めて、味を確かめながら考える。結論は、机の上ではなく現場に落ちているのです。
たとえば、こう命ぜられたとしましょう。
「明後日の朝4時までに、破壊された橋を代替せよ」
資材も人員も足りない。それでも仲間と物資を安全に渡さなければ、多くの命が危険にさらされる。そのようななかで工兵は考えます。
(1)地形と橋脚の状態を見極める
橋脚は再利用できるか?地盤の強度は?川の流れや水深は?
(2)何を通すのかを確認する
渡るのは人か?車両か、戦車か?その重さに、どの橋材なら耐えられるか?
『セルフスターター 自分で自分を動かすスキル 米陸軍工兵学校で学んだ仕事と人生で大切なこと』(有薗光代、日本実業出版社)
(3)リスクと外的要因をとらえる
敵の攻撃、夜間作業による体の冷え、天候の変化、そして月齢(夜間の明るさ)は?
「任務」と「現場」を往復しながら、最適の一手を選び取る。それが工兵の思考です。
批判的思考とは、状況を鵜呑みにせず、「本当にそうか?」と問い、構造を見抜く力です。その目的は相手を否定することではなく、「問い」を出発点に現場を正しくとらえ、よりよい解を生み出すことです。
議論でも、互いに問いを投げかけることで、チームの思考は深まり、問題解決力は飛躍的に高まります。
工兵学校では、いつも次の言葉が掲げられていました。
「批判的思考で現場を正しくとらえることが、創造的な解決策の土台となる」







