難局打開の答えは常に
顧客インサイトにある

 旺盛な訪日需要に支えられ、業績は順調に伸長しています。一方で、歴史的な円安も手伝って、旅行などの日本人の海外渡航はコロナ禍前の水準には回復していません。さらに、機材の納入遅れや人手不足など、需要回復による業界全体の諸問題が発生し、それに伴って貴グループでは「AirJapan」ブランド便の休止も発表されました。また、中国政府による訪日自粛といった想定外の地政学リスクも生じており、事業環境のボラティリティは高まるばかりです。変革を通じた成長を、ここからどのように牽引していきますか。

 もともとボラティリティが高いのが航空業界の特徴で、いまに始まったことではありません。2000年代以降だけでも、2001年のアメリカ同時多発テロ、2003年のSARSの流行、2008年のリーマンショックと、次々と有事に見舞われています。ですから一つひとつの出来事に一喜一憂せず、常に何かが起こることを前提に準備するのが、移動インフラを支える航空会社の責務です。

 ただし、コロナ禍以降、変数が増えているのは確かです。それも変数同士が有機的に結び付いたり、相互に作用し合って影響が増大するので、より見通しが利かなくなっているのを実感しています。では、どうするのか。やはり、答えは「顧客のインサイト」にあると考えています。先の見えない困難な時だからこそお客様に寄り添い、その行動や心理の背景にある本質的なニーズを見出していくしかありません。

 コロナ禍の時のように、社員一人ひとりが挑戦をして変革の渦が大きく動き出せば、会社全体で何が起きるのか。それを考えただけでもワクワクします。今後はよりいっそう、みずから課題を発見し、目標を立てて行動できる自走人財が競争力の源泉になると考えています。そのために、先ほどご紹介した通り、「がっつり広場」の機能を人事部門へと移管しました。有事において「一円でも多く稼ぐ」から、中長期を見据えた「持続的な成長を支える」ための人財育成へと、主目的を変えたのです。

 変革というと新規事業創出などに目が向きがちですが、ANAは既存の航空事業におけるオペレーション面やサービス面でも絶え間ない進化の努力を続けており、そのかいあって、世界最高水準の評価をいただいています。世界的な航空サービス格付け機関である英国SKYTRAXより最高評価5スターを13年連続で受賞しているほか、専門家による搭乗監査とお客様からの評価をもとに世界最高水準のエアラインを認定するAPEX WORLD CLASS Awardでも最高評価をいただくなど、名実ともに世界のトップランナーとなりました。日本の航空会社なのだからサービス品質が優れているのは当たり前だと思われるかもしれませんが、同じことをやっていては高評価を維持することはできません。日々の業務や目の前のお客様から課題を見つけ、自発的に動ける人財が数多くいることが、毎年の高評価につながっていると自負しています。

 もともとANAは、28人の社員が2機のヘリコプターから始めたベンチャー企業です。そのDNAは連綿と受け継がれ、コロナ禍という危機に瀕して、持ち前の起業家精神がもう一段大きく花開いたように思います。困難に正面から向き合い、それを新たな成長のきっかけとする挑戦者魂を次の世代へと継承していくことが、社長の大事な仕事です。私が理想とする「企業文化は戦略に勝る」、それを体現する組織を社員とともにつくり上げることにやりがいと醍醐味を感じています。