先に「ワンワン」を教えるのは
決して遠回りではない

 ですが冒頭の通り、筆者が親御さんからよく聞かれる疑問があります。「どうせ大人の言葉を覚えるなら、最初から『犬』と教えた方が効率的では?」というものです。

この問いにお答えすると、本来、言語習得において大切なのは、「単語を知っていること」よりも「言葉への愛着と好奇心を持つこと」です。

 赤ちゃんにとって、言葉は単なる情報伝達ツールではありません。「ワンワン!」と言ったとき、親が目を輝かせて「そう!ワンワンだね!」と応えてくれる。このやりとりの喜びが、言葉を使おうとする意欲を生みます。

 仮に最初から「犬」と教えたとしても、子どもがその言葉を使いこなせるようになるのはもう少し先です。なぜなら、言語習得の速度は音節数や語彙の難易度よりも「言葉を使うことへの動機づけ」と「親との豊かなやりとり」に大きく依存すると言われているからです。
 
 一度「ワンワン」と教えてから、改めて「犬」と教えるという方針は、遠回りではありません。むしろ、子どもの発達特性に合った最も自然な道筋なのです。

赤ちゃん言葉を禁じられた子は
将来どうなるのか?

 では逆に、赤ちゃん言葉を一切使わずに育てた場合、子どもの言語発達はどうなるのでしょうか。

 まず明確に言えることは、「禁止すれば賢くなる」という根拠はない、ということです。言語学者や発達心理学者の間では、乳幼児期のマザリーズ体験が言語習得を促すというコンセンサスが形成されています。

 一方で、赤ちゃん言葉を使わずに育った子どもが言語発達において深刻な遅れを示すという報告もありません。つまり、絶対に使わなければならないわけでもありません。ただし、赤ちゃん言葉を「禁じること」で生じる問題は別にあります。

 それは、親が言葉のやりとりに「正しさ」を求めるあまり、子どもの発言に対して否定的な反応をしてしまうことです。

「ワンワンじゃなくて犬でしょ!」と訂正されれば、子どもは「自分の言葉は間違っているのかな」と感じ、発話する意欲を失いかねません。言語発達において最も危険なのは、言葉を使うこと自体への恐怖や萎縮です。こちらの方が深刻です。