「早期教育」は
本当に正解なのか?

「絵本も、子ども向けより大人向けの方がいいのですか?」。この疑問も、教育熱心な親御さんからよく聞かれます。その質問に対する端的な回答は「子どもの発達段階に合ったインプットが、最も効果的」ということです。

 言語習得の研究では「i+1理論」が知られています。現在の理解レベル(i)より少しだけ難しいもの(i+1)が最も学習効果が高く、大幅に難しすぎる素材(i+10、i+20)は理解できないためほとんど吸収されない、というものです。

 たとえば、まだひらがなを読み始めたばかりの4歳の子に、漢字や難しい語彙が多い大人向けの本を毎日読み聞かせても、文章の意味が処理できないため記憶に残りにくいものです。

 それよりも、繰り返しのリズムがあり、身近な言葉で書かれた絵本の方が、語彙の定着・読解力の基盤形成・読書への愛着づくりのすべてにおいて効果的です。

 その子の発達に合わないことをやると、言葉そのものを嫌悪する可能性もあるので、先走りはしない方が無難です。

 もちろん、発達が進むにつれて少しずつ難易度を上げていくことは大切です。年齢より少し難しめの本を一緒に読みながら、わからない言葉が出てきたら一緒に考えてみる。

 そういうやりとりの積み重ねこそが、言葉を豊かにします。(ただし、子どもの中には幼少期の頃から言語能力が高い子がいて、子どもが言語を次々と学びたがる場合は、その意欲に応じて与えていきます。)

 言葉に限らず、「早くやればやるほどいい」という考え方は、多くの習い事でも語られます。英会話、ピアノ、スイミング、プログラミング……。では、早期教育は本当に子どもの将来に有利なのでしょうか。

 それは「何を、どのように、なぜやるか」によって全く変わります。

 発達心理学の観点からは、ある能力が伸びやすい時期(敏感期・臨界期)があることは事実です。たとえば、音感形成は3歳〜5歳がゴールデンタイムと言われており、言語の音韻習得は10歳頃までが特に敏感な時期とされています。この点では「早く始めること」に一定の意味があります。

 しかし重要なのは、「子ども自身が楽しめているかどうか」です。興味も関心もないまま、親の意向で習い事を詰め込まれた子どもは、たとえ一時的にスキルを身につけたとしても、それを自分の力として活かすことが難しくなります。難しくなるどころか、その習い事を嫌悪し続けることにもなりかねません。

 私がこれまで毎年3,000件以上の子育て個別相談を通じて感じてきたのは、「何かが得意な子」ではなく「何かが好きな子」が、長期的に最も伸びるということです。好きなことへの没頭が、集中力・思考力・自己効力感を育て、それが他の分野にも波及していきます。これが教育の本質です。