柳井正氏の愛読書にも書かれている
「ノーサプライズ」の鉄則

 ファーストリテイリング創業者・柳井正氏は、アメリカの経営者ハロルド・ジェニーンが著した『プロフェッショナルマネジャー』(プレジデント社)を「自分にとっての経営の教科書」と公言しています。その中に登場するのが「ノーサプライズ」という考え方です。

 ノーサプライズとは、文字通り「部下を驚かせるな」ということです。

 フィードバックにおいて最も避けるべきこと、それは「寝耳に水の指摘」をすることです。言いにくいことを先延ばしにした挙げ句、半期に一度の評価面談で、それまで一度も触れてこなかった課題を突然伝える。降格や低評価の事実をその場で初めて告げる。これが、部下の信頼を一瞬で損ねる最大のNG行動です。

 フィードバックとは「餌を与える=feed」と「戻す=back」が語源で、部下に対して日常的・継続的に情報を「戻していく」行為を指します。つまり本来、フィードバックは半期に一度の面談で「まとめて行う特別なイベント」ではありません。日常で上司が感じた部下の課題や期待を日々の業務の中でいわば呼吸するように都度伝えるのがフィードバックなのです。

「寝耳に水」の評価が
部下の不信感を生む理由

 マネージャーが半期に一度の面談で、低評価や降格の事実を初めて告げたとしましょう。背景の説明もなく、いきなり結果を突きつけられた部下は「なぜ自分がこんな評価なのか」「なぜ外されたのか」「思っていたことがあるなら先に言ってほしかった。そうすれば行動を改善できたかもしれない」――と不信感を募らせるでしょう。

 フィードバックが機能するためには、マネージャーとメンバーの間に相互理解と信頼関係、心理的安全性が構築されていることが前提となります。信頼の土台があってこそフィードバックが届くのであって、信頼関係のないまま指摘をしても、相手の耳には入りません。

 たとえば、組織の中で起こる問題の多くは、相互の誤解から生まれます。そしてその誤解の多くは「きちんと確かめずに終わったこと」が原因です。問題が起きたその場で伝えることが大切であって、時間が経過してからまとめて伝えても、当時の状況は正確に思い出せないし、相手も納得感を得にくいのです。

 この構造は、「組織的公正理論」の観点からも説明できます。これは組織の中で下される意思決定、資源配分、手続き、上司や同僚の対応が「公正だ」と従業員が感じるほど、満足・信頼・コミットメント・市民組織行動などにいい影響がもたらされるという理論です。

 日頃から説明責任を果たし続けているマネージャーは、評価結果そのものが厳しいものであっても、部下に「ちゃんと理由を説明してくれている」という公正感を感じさせることができます。

 逆に言えば、部下が人事についてサプライズを感じるとしたら、それはマネージャーの日頃のコミュニケーションが不足しているということです。

マネージャーの声掛けは
何を、どのタイミングで伝える?

 では、ノーサプライズは具体的にどう実践すればよいのでしょうか。

 ノーサプライズの本質は日頃の説明責任にあります。評価や人事異動の決定権を持つマネージャーは、なぜそのような判断をしたのかを精緻(せいち)に説明できなければなりません。しかも、その説明を事後にまとめて行うのではなく、日頃のコミュニケーションの中で少しずつ伝え続けることが重要です。

 たとえば日頃の会話の中で、「君は営業よりもマーケティングのほうが向いていると思うよ」「チームメンバーともう少し細かく調整してみるといいかもしれないね」といった具合に、継続的に部下に感じたことを伝えておくのです。

 耳の痛いことを小出しに伝えることは、ひとつひとつのフィードバックを相対的にやわらかくすることにもつながり、マネージャー自身にとっても言いやすくなるのです。

 そうすれば、人事異動の際や評価結果を伝えるとき、前提が共有されているので、部下が驚くことはなくなります。

 ここで重要なのが「ポジティブ:ネガティブ=3:1」のバランスです。ネガティブなことだけ伝え続けると、部下は心理的な壁を作ってしまいます。ポジティブをしっかり積み上げておくことで、ネガティブなことを伝えるときに、相手が受け入れやすくなります。

「さっきのミーティングでのあの発言は、周囲にも好感を持って受け止められていたよ」と伝え、「ただ、納期前に提出してほしいと言っていた書類、少し遅れたよね。締め切りは守らなくてはだめだよ」と指摘する。このセットが自然にできるようになれば、しめたものです。

 ポジティブな話題という“種”を日頃から蒔き続けておけば、仮に緊急事態で、厳しいことだけを言わなければならない場面でも、「あのさ、これなんだけど」とすっと切り出せるようになります。

 ノーサプライズで、日頃から期待や課題感を伝え続けられている部下は、「この上司は何を考えているかわかる」という安心感と信頼感を持っています。たとえ厳しいことを言われても、そのことだけで両者の信頼が崩れたりはしないのです。

 なにも難しいことではありません。これはスキルとして「知らなかったからできていなかった」というマネージャーが多く、知ればすぐに実践できることです。要は普段から部下とコミュニケーションをとっていればいいのです。

 具体的には、出社が多い会社なら日頃の雑談を活用し、リモート環境であれば週に一度15分程度の1on1ミーティングを設けるだけでも違ってきます。フィードバックを自然に行う環境をつくりましょう。今日からノーサプライズに向けて、まず部下にちょっと声をかけてみることから始めてみてください。

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