進化したシートは、「15ミリの肉厚ウレタン」というゼータクを継承しつつ、その「密度」を極めて知的に再構築している。座った瞬間に「おぉ」と唸らせるほどソフトな当たりを演出しながら、長距離の高速移動、特に湾岸線の容赦ない継ぎ目や横風に晒されても、ドライバーの骨盤が揺らぐことはない。フォルシアの技術陣が、ウレタンの気泡の大きさをナノ単位で制御し、温度変化に左右されない一定の反発力を生み出した結果である。ドイツ車のように「骨格」で身体を律する方法ではなく、密度の異なるウレタンのレイヤーが、優れたフィルターのように“路面のザラつき”を濾過していく印象だ。

PHCサスとコンフォートシートの二重奏、運転していて疲れない

 出色は、湾岸線の忌々しい橋脚の継ぎ目を超えた瞬間だ(湾岸は本当に路面がヒドい)。普通なら「ドンッ」という衝撃と共に内臓が揺れるはずのシーンも、C3は実に上品に越えていく。標準装備となったPHCサスペンションが、シートの魔法と相まって上質な乗り心地をつくり上げている。

 大きな入力は液体のいなしでサスが飲み込み、その収束の瞬間に残るかすかな「おつり」を、シートの高密度ウレタンが器用に吸収している。サスペンションが土台をフラットに保ち、シートが最後の一粒まで不快な周波数を消し去っている。コストカットの嵐が吹き荒れるBセグメントにおいて、情熱と執念の産物だろう。

 ステアリングを握る視線は常に水平を保ち、脳内で「揺れ」を補正する必要がない。だから疲れない。疲労を根源から断つのがシトロエンの流儀である。

PHCサスペンションC3のリアセクション。ダンパー内に2つの油圧式リミッターを内蔵する「PHC」を採用。ストローク末端で衝撃を反射させず、油圧で熱に変換し吸収することでフラットで底付き感のない極上の乗り味を実現している。高速の継ぎ目でガタッと来ない秘密はここにある Photo by F.Y.
C3のフロントセクション。PHCダンパーが、伸び・縮み両方向の衝撃を油圧でプログレッシブに減衰。コンパクトカーの常識を覆す、しなやかで懐の深いハンドリングの要である Photo by F.Y.C3のフロントセクション。PHCダンパーが、伸び・縮み両方向の衝撃を油圧でプログレッシブに減衰。コンパクトカーの常識を覆す、しなやかで懐の深いハンドリングの要である Photo by F.Y.

 インテリアは良く言えば合理的。悪く言えば安っぽい。だが貧乏臭くはない。

「C-Zen Lounge」と名付けられた空間は、物理的な豪華さを捨て、人間工学的な「正しさ」にコストをフルスイングしている印象だ。視線を動かさずに情報を得るヘッドアップディスプレイの配置や、ファブリックの温かみを活かした質感の演出は実に潔く賢い。この潔さこそが、シトロエンが辿り着いた「Bセグメントの最適解」なのだろう。