私は震えそうになった。だって、村上さんは全く知らないはずだけど、夫の藤本(編集部注/獄中結婚した学生運動の闘士・藤本敏夫氏)がその前年に肝臓ガンを切っていて、もう亡くなるまで半年くらいと宣告されていた時期だったから。

「村上さん、これはすごい歌になるわね、きっと。あなたとの縁はただごとじゃすまないかも」と思わず言っていた。

この歌があったから
夫との死別に落ち込まずにすんだ

 結局この「花筐」をレコーディングしている夏に藤本が亡くなり、アルバムはその秋に発売になった。村上さんはその時初めて夫の死を知ってショックを受けていた。

 でも私にはこの歌はありがたかった。

 もう歌はうたえなくなっちゃうかもしれない、そんな気持ちだったけど、この歌があったから、私は落ち込まないですんだ、と思う。

 私はこの曲のメロディーに、藤本との精一杯の別れの思いを込めて歌詞を綴った。

 今もこの歌をうたうたびに、何もかもが新たなシーンに見えたあの頃の緊迫感を思い出す。

 人が死ぬ、ということは、その人が抱えている大荷物をそこに放り出していくこと。これまでの歴史、これからのプラン、果たせなかった夢。それらがギッシリ詰まった荷物の持ち主が、突然いなくなることなんだ、と思い知らされた。

「奥さん、どうしますか?」

 そう聞かれ、何から何まで私が判断を下し、決めていかなければならない。夫婦だったということの意味をこの時ほど痛感し、深く身に染みたことはなかった。

 彼がどうしたかったのか、彼にとって大切なものは何か、終わらせていいことと、終わらせてはいけないことを見極める。もう彼が答えてくれない問いを、私自身に問いかけなければならなかった。

夫の死後に初めて知った
彼の仕事に懸ける思い

 仕事については、ほとんど説明してくれていなかったので、私はその時、知らなかった夫の実像に触れることにもなった。

 学生運動から離れた彼が求め続けた「食と農の新しい未来像」。

 有機農業を世の中で認めさせるための認証制度、生産者と消費者が直接繋がる直販の形、都市の生活から出る廃棄物を農業の現場に循環させるシステム……。