たとえば飲食大手に入社したとします。理系は猫型ロボットを導入するとDXできることは理解できます。しかしロボット購入でバランスシートがどうなるか、現場での費用対効果のKPIはどう設定するといいか、効果がプラスならばどんな早さで何台まで導入を進めていいかについては経営学の知識がないと判断できません。

 製造業でも同じです。理系出身者は現場の生産ラインの中での効率向上はわかっても、サプライチェーンの地政学リスクは理解できていません。つまり本当に必要とされるAI導入後の全社的な生産計画を担うには知識が不足しているのです。

 ここは私自身の経験から話した方が早いかもしれません。私は理系からコンサルに就職しました。周囲から見ると順風満帆に見えるキャリアを築くことができましたが、実際は水面下で苦労したことがたくさんあります。それが文系知識です。

 そもそもコンサルファームに入社すると理系でもコンサルティングのスキルについて徹底的に叩き込まれますから、たとえば経営学の知識については理系でもあとから十分にキャッチアップできました。ロジカルシンキングのような論理学のスキルも同様です。ここはそれほどハンディはなかった部分です。

 ただファームで教えられない部分で、理系であるがゆえに「穴」になる知識がいくつかありました。しかもそれらはビジネスパーソンとして活躍するためには不可欠な知識です。振り返ってみると私の20代は、そういった欠落に気づき、独学でそれを勉強した時代でもありました。大きなものだけで4つあります。

 最初に欠落に気づかされたのは経済学です。これはファームで教わる経営学とはまったく別物の知識なのですが、なまじ似ているため、知識の不足に気づかない理系の同僚も結構いました。

 車の運転に例えると経営学は車の運転に係わる知識ですが、経済学は天気の変化や地形の違い、渋滞の発生などに例えられる知識です。経済がわかっていないとなぜ不況になってきたのか、地政学的リスクがなぜ急に高まったのかといった変化の原因に気づくのが遅れます。

 2つめに政治学があります。大手コンサルファームのクライアントが大企業である以上、必ず直面するのが人間の要素です。コンサルとしての立場が上になるほど権力闘争や組織力学の理解が、企業の問題解決には知識として不可欠な要素になってきます。

 3つめに社会学です。経営で成果を出すためには社会についての知識が不可欠です。いい製品を作ってもユーザーがそれを試そうとしない。正しいデータ分析をしても意思決定者が動かない。こういった仕事で直面する壁についての説明を与えてくれるのが社会学です。集団の挙動を扱う実用科学なのですが、理系の私にとってはその基本すら理解していなかったまったくの穴といっていい分野でした。