大人になって、受験と無関係に数学を学ぶ楽しみ
これまで4回にわたって掲載してきた対談(前回はこちら)。「元教え子たちに『尊敬できる先生』というアンケートを取ると、学校の先生の名前が出てこない」と望月さん。自分自身が中学受験の経験者で、数学が得意な親ほど犯してしまいがちなわが子との「悪い接し方」について、望月さんと入江さんがズバリ指摘します。(ダイヤモンド社教育情報、森上教育研究所)
まず、算数・数学の面白さ楽しさを伝えたい
[聞き手]森上展安・森上教育研究所代表
――単なる反復練習では応用が利かない、そして「まとめノート」を自ら作成して活用することの大切さが伝わったことをお話しいただきました。ところで、入江さんは札幌に移住して2年、現地の受験環境はいかがでしょう。
入江 日本全体で東京一極集中が進むのと同様に、北海道でも札幌一極集中が進んでいます。進学機会や教育環境が都市部に集中しているため、教育熱心な家庭は札幌や道外の大都市圏を志向しやすい構造があります。
一方で、札幌では東京などの大都市圏と比べると中学受験の比重は小さく、優秀層は公立トップ校に進学する傾向が強いです。その結果、高校受験と大学受験を軸とした学習設計になりやすい傾向があります。つまり、才能があっても受験の枠組みを超えて探究的な学びを深める動機を持ちにくいという側面があります。そうした環境の中で、才能があるのに埋もれてしまっている生徒に光を当て、受験にとらわれず自由にのびのびと学べる環境を作りたいと考えています。
入江翔一(いりえ・しょういち)数学専門塾「数楽道場」代表。現役医師。1988年大阪生まれ。灘高等学校、東京大学医学部医学科卒。医師として勤務しながら、2021年東京大学理学部数学科卒。25年から札幌市に移住、26年3月開校。
望月 とはいえ、受験生とその親からしたらまず志望校への合格で、感動もいいけれど、とにかく合格したい、合格させてほしい、という思いの方が強いでしょうね。
――その点の難しさはありますね。
入江 もちろん受験は大事なので、その対策は行います。ですが、受験にとらわれすぎて、楽しさや感動を置き去りにしてはいけないと思います。ずっと言われ続けていることですが、日本の教育はそろそろ受験中心の学びから、学問の面白さを探究する方向に目を向けていく必要があるように感じています。ほんの小さな試みではありますが、その第一歩を、数楽道場で実践してみたいと考えています。
――実際に塾を立ち上げてみて、反応はどうですか。
入江 「中学受験よりも、本物の数学を学ばせたい・学びたい」と飛び級入会を希望される声もあれば、一方で「学年を下げてもいいから楽しく学びたい」というお声をいただくこともあります。あるいは、「どうせ学歴を売りにして受験競争をあおる塾なんでしょ?」と懐疑的な目で説明会に来られ、「大変失礼しました」と言って帰っていかれる方もいらっしゃいました(笑)。望月先生はどのように生徒を集められましたか。
望月 勤めていた大手塾を退職して1年近く失業保険で生活していたのですが、国語の先生に誘われて、北浦和で中学受験と高校受験の小規模の教室を3年ほど一緒にやりました。その時は新聞折り込みチラシも含め、一般に公開して生徒も募集したので、当然ですけれど、塾の名前もありました。その後、それぞれ別にやった方が動きやすいだろうということになり、南浦和のマンションの一室で算数と数学の指導を始めました。そのときは、抱えていた高校受験生を合格させてから、次にどうするか考えればいいと思っていました。
実は開講当初から、横浜の小学生が通うようになっていました。神奈川で教室を展開していた知り合いの塾長に頼まれて、青葉台(横浜市)で中学入試分析や算数の勉強法について講演を何度かしたところ、「先生はどこで教えているのか」と。「南浦和なので通うのは無理です」と断ったのですが、算数オリンピックのメダリストも含め、優秀生が通いはじめたということです。エレベーターのない5階の一室まで、生徒たちは階段を上り下りしていました。







