製造業の重心移動と日本株高の真因
安全保障と産業構造の変化は、金融市場にも確実に反映されつつある。2024年後半から続く日本株の上昇について、コーポレートガバナンスの向上やウォーレン・バフェット氏の日本企業への評価や日本株買い増しなど多様な説明がなされているが、それらは現象の一端にすぎない。現在の株価上昇を支えているのは、地政学的再編と製造業の重心移動という、より根本的な構造的な力学が日本へシフトしていることである。
その核心にあるのが「チャイナ・リスクの現実化」だ。
2022年以降、ゼロコロナ政策の混乱、台湾海峡緊張の高まり、習近平政権による民営企業への恣意的介入が相次いだことで、製造拠点を中国から分散させるサプライチェーン再編が世界規模で加速した。当初は「チャイナ・プラスワン」として語られていた動きが、今や「チャイナ・マイナスワン」、すなわち本格的な脱中国戦略へと深化している。
その受け皿として日本が選ばれている理由は、ASEANやインドにはない固有の強みにある。
高精度製造能力、成熟した部品サプライチェーン、知的財産の法的保護、政治的安定性などを同時に満たす国は、世界でもごくわずかに限られる。TSMC熊本工場やラピダス千歳工場に象徴される半導体製造の日本回帰は、その最も可視化された事例だが、水面下では素材・精密機械・センサーといった分野でも同様の流れが静かに進行している。
製造業の回帰は、関連企業の受注増・設備投資増・雇用増というかたちで企業収益に直結する。それが株式市場の再評価を促し、外国人投資家の資金流入を呼び込む。コーポレートガバナンス改革はこの流れに乗りやすい地盤を整えた触媒であって、株高の根本的な駆動力ではない。
この流れに対してドイツは、正反対の立場に置かれている。上述した「安いロシア産ガス×中国市場×ユーロ安」という成功モデルの崩壊により、欧州車は日本車と比較して割高になり、対米輸出での競争力も急速に失われつつある。フォルクスワーゲンが大規模リストラを断行し、BASFが大規模な事業再編を行っているのは、個別企業の経営判断ではなく、ドイツ製造業全体が直面する構造的な競争力喪失の表れだろう。
さらに、トランプ政権下での対日優遇姿勢が後押しとなっている。関税交渉での相対的な柔軟性と、製造業の対米投資の歓迎姿勢が重なることで、日本企業の対米直接投資は増加傾向にあり、これがアメリカ側でも「日本はアメリカ産を買う国」「日本は対米投資する国」という認識を強化している。
「中国リスクの高まりによる製造業回帰」「ドイツ製造業モデルの崩壊による競合相手の後退」「トランプの対日優遇による投資環境の改善」という3つの力が同時に働いた結果、製造業の重心が静かに日本へと移りつつある。
この構図は従来の説明では捉えきれなかった日本株高の「持続性」を支える説明になりうる。
ただし、株価は必ずしも国内景気をそのまま反映するわけではない。グローバル企業の比率が高いドイツ株(DAX)は、国内経済が停滞していても上昇する局面があり、実際に近年の株式市場でもその傾向が見られている。







