ドイツのラムシュタイン米空軍基地を飛び立つ輸送機 Photo:Boris Roessler/gettyimages
本当に「象徴的撤退」で済む話なのか
2026年5月、トランプ政権がドイツ駐留米軍5000人の撤退を発表した。
これは、トランプ大統領が、イラン攻撃に対して欧州各国が非協力的だったことに立腹して持ち出した「1万2000人削減」よりは、かなり小規模だった。ドイツ政府は「象徴的な削減でしかない」と評価し、NATO全体も動揺を抑えようとした。
だが、この撤退劇が示しているのは、戦後80年間続いてきた米欧同盟の根本的な変質である。そしてその変質は、これまで逆風が吹いていた日本を、地政学的に優位にしている要因にもなっている。
今回は、在独米軍基地からの米兵5000人撤退が示す日独両国への影響を、安全保障・産業・金融市場という3つの面から考えていく。
5000人という今回の撤退規模は、ドイツ駐留の約3万6000人のうちの約14%にすぎず、外形上は大きくは思えない。実際、ドイツ国防省のボリス・ピストリウス大臣も「予見可能だった」と語っているとおり、部隊ローテーションの変動幅をわずかに上回る程度である。トランプ第1期で試みられた1万2000人削減よりはるかに小規模だ。
そういう意味ではたしかに在欧米軍についての大きな「方向転換」とは言えず、「調整」の範囲にあたるだろう。だが、5000人撤退とともに実施される政策には、ドイツはもちろん、欧州全体が背負わされる深刻な課題が隠されている。
それは、バイデン政権が2024年に合意した措置を、トランプ政権が撤回したことである(ただし、ドイツ国防省は「撤回はされていない」と反論している)。
バイデン政権が合意したのは、ドイツにトマホーク巡航ミサイルとダーク・イーグル極超音速ミサイルを配備して、ロシアによるウクライナ軍事侵攻によって高まった脅威に対応するという政策だった。もちろん、ロシアに対するヨーロッパ防衛を強化する目的で決められた措置である。
ロシアの脅威が拡大した場合にアメリカがNATO防衛を強化するというのは、戦後一貫して行われてきた暗黙のルールだった。ヨーロッパにとって他の代替手段はまだ存在しない。つまり、今回のドイツ駐留米軍撤退という問題の本質は、兵力の数ではなく、アメリカによるヨーロッパ防衛の意志そのものが揺らいでいる点にある。
深読みすれば、今回の撤退はトランプ政権とロシアの間で進む静かな接近を示すシグナルともいえる。ヨーロッパのための「ロシアへの対抗措置」ではなく、中国包囲網強化のための「ロシア宥和」へとアメリカが舵を切ろうとしていることを象徴している。
しかも、この動きはイラン攻撃後の対ロ石油制裁停止とほぼ同時期に起こっている。アメリカがロシアとのデタント(緊張緩和)に向かいつつあるというヨーロッパ側の懸念は、的を射ている。







