Photo:PIXTA
ホルムズ海峡の封鎖は、中東依存が9割を超える日本に深刻な打撃を与え続けている。かつての石油危機を先人たちはどう乗り越えたのか、そして現代の不安定な国際情勢下で、いかにしてエネルギーを確保すべきなのか。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、資源小国である日本が「脱石油」を目指し、エネルギー自給率を向上するための具体的な解決策を解説する。(国際大学学長 橘川武郎)
ホルムズ海峡封鎖が巻き起こす影響
天然ガス備蓄の課題とは
米国・イスラエルの武力攻撃に対抗してイランが強行したホルムズ海峡の実質封鎖は、石油等の供給途絶の懸念を高め、日本経済を震撼させている。わが国で使用する石油のうち、ホルムズ海峡を通過して供給されるものの比率(いわゆる「ホルムズ海峡依存度」)が、約9割に達しているからである。
それでも石油に関しては、わが国は一定の備蓄があるものの、1993年に備蓄義務を廃止してしまったナフサについては、事態はある意味でより深刻である。
2024年現在、日本はプラスチック製品等の原料となるナフサの61%を輸入に頼っており、その74%は中東産である。
残り39%は国産ナフサだからといって、決して安心できるものではない。国産ナフサは国内の製油所で作られているが、原料の大半が中東産の原油だからである。今回のホルムズ海峡危機は、「オイルショック」であるだけではない。より深刻な「ナフサショック」でもあるといえる。
一方で、天然ガスについては、日本のホルムズ海峡依存度は6%にとどまる。ただし、今後、液化天然ガス(LNG)価格の上昇が、わが国の経済に打撃を与える恐れは十分にある。
イランの反撃により、世界最大級のLNG輸出拠点であるカタールのラスラファン基地が大きな損害を受けた。復旧には数年かかるといわれ、たとえ今回の軍事衝突が収束に向かったとしても、LNG価格に長い期間にわたって上昇圧力がかかることは、避けられそうにないからだ。
現時点では、ラスラファン基地からの日本向けLNG輸出量はそれほど多くはないが、価格上昇の影響はわが国にも及ぶだろう。
ここで問題になるのは、日本に天然ガスの備蓄制度がないことである。石油にしろ天然ガスにしろ、備蓄の放出は不足する物資を補給するだけではなく、上昇する価格を抑制する意味合いも持つ。
日本では長年、天然ガスの備蓄について、零下162℃以下という超低温を維持するLNGの長期貯蔵は技術的に難しいため不可能だとされてきた。
そうであるならば、液体ではなく、気体で天然ガスを備蓄すればよい。現にウクライナ戦争以降、ロシアからの天然ガス供給が遮断される脅威に直面したヨーロッパ諸国が取った対応策には、LNG輸入へシフトすることとともに、「気体」での天然ガス備蓄を拡充することも含まれていた。
このように言うと、「ヨーロッパには岩塩採掘坑のような天然ガスを地下備蓄する適地が存在するが、わが国にはそれがない」という反論が予想される。
しかし、そのような反論は必ずしも正確なものではない。
日本にも、新潟県を中心にガス田があり、天然ガスを一定規模、気体で地下備蓄することは可能だからである。実際、総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会は、15~17年にかけて、輸入LNGの気化ガスを国内ガス田に地下備蓄することを、本格的に検討した経緯がある(例えば、「総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会 報告書」、17年6月、参照。当時、筆者は同分科会の会長を務めていた)。
しかし、コスト増を恐れて電力業界と都市ガス業界が手を組んで反対したこともあり、現時点に至るまで日本では、天然ガスの備蓄制度が実現してこなかった。
なお、場所が限定される国内のガス田に頼らずとも、天然ガスを気体で地下に備蓄する基地を人工的に作るという方法もあり得る。現実に、液化石油ガス(LPG)に関しては、この方法で愛媛県今治市波方町と岡山県倉敷市で、気体での国家備蓄が行われている。
今回のホルムズ海峡危機に関しては、そのような事態が起こり得ることはあらかじめ想定できたのだから、なぜ事前に対応してこなかったのかという批判がしばしば聞かれる。しかし、この種の批判には、二つの点で問題がある。
次ページでは、「石油に頼らざるを得ない」という状況を、かつての日本はいかにして覆したのか。国難を救った日本独自の発明を振り返りつつ、資源小国である日本が「脱石油化」を成し遂げるための具体的な処方箋を詳述する。







