エネルギー動乱Photo:PIXTA

イラン戦争による逆風下でも、液化天然ガス(LNG)が力強い動きを見せている。カタールのLNG基地の生産停止による影響は米国を中心とする増産体制が上回り、市場価格も22年危機時の高値には遠く及ばない。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、黄金時代を迎えつつあるLNGの最新動向を分析する。(アクセンチュア素材・エネルギー本部マネジング・ディレクター 巽 直樹)

イラン戦争でも冷めない「LNG黄金時代」
消失を上回る供給能力と熱狂する需要

 2025年12月、本連載で「2026年エネルギー業界の10大テーマ」を掲げた際、5番目に「IEAの『祖業回帰』と『LNG黄金時代』の到来」を挙げた(25年12月9日配信『AIと電力コスト、原発と再エネ政策、対米エネルギー投資、気候変動対策、LNG回帰...2026年エネルギー業界の10大テーマを徹底解説!【前編】』参照)。

 26年も折り返しを過ぎたいま、この液化天然ガス(LNG)に対する見通しの中間評価をしておきたい。結論から言えば、当時提示した方向性は妥当であった。予想と結果の細かな差異を逐一検証することが、本稿の主眼ではない。より重要なことは、戦争という最大級のストレステストを経て、その方向性が一段と鮮明になったことだ。

 そのストレステストとは、26年3月のイラン戦争に伴うホルムズ海峡の事実上の閉鎖である。「令和のオイルショック」として顕在化したのは、この海峡という単一の隘路に石油調達を依存する構造的リスクである。

 このボトルネックを通るのは石油だけではなく、世界のLNG供給の約20%も同じ経路に依存している。カタールのLNG設備が攻撃を受け生産停止に追い込まれると、アジアのスポット価格は一時20ドル/MMBtu(100万英熱量単位)超へ急騰し、地政学リスクが石油とガスの両市場で同時に現実化した。

 しかし、LNG黄金時代への流れは変わらなかった。北米の新規液化設備の立ち上がりに加え、アフリカなどでの増産やアジア側の需要減少が相まって、供給喪失分を相当程度吸収し、価格は22年の危機時の水準を大きく下回ったまま推移している。むしろ需要側の熱狂は加速する一方で、その象徴が、発電用ガスタービンを巡る争奪戦である(26年5月26日配信『AIブームが巻き起こす「電力インフラの熱狂」とITバブルの共通点・相違点とは?電力業界がやがて迎える投資判断のリスクを専門家が徹底考察!』)。

 昨年末、「AIバブルがはじけてもこの潮流が大きく変わることはない」と指摘したが、バブルの行方自体はいまだ論争の渦中にあり、予断を許さない。一方で、戦争すらもこの構図を変えるには至らなかった。脱中東依存に向けた調達分散により、北米など他地域が存在感を増す傾向はむしろ強まっている。

 次ページでは、イラン戦争がLNG供給に与えた打撃と、それを上回る需給両面の拡大、そして高市政権の対米投資と結び付いた日本勢の布石を順に検証する。