保険業界へのESR導入で何が変わる?有識者3人が徹底討論、「ALM悪玉論に憂慮」「思考停止に陥るな」と強調する理由【鼎談後編】

2026年3月末から「経済価値ベースのソルベンシー規制」と呼ばれる新たな健全性規制が導入された。連載『ダイヤモンド保険ラボ』の「プロフェッショナル・レポート」では、初期の段階から新規制導入に向け、有識者会議などに参画してきた専門家3人による鼎談を前編と後編に分けてお届けする。後編では、保険会社の債券含み損拡大のみが喧伝されるALM(資産と負債の総合管理)に対する懸念に加え、商品販売に与える影響や金融庁への期待について意見を交わした。保険会社に「思考停止に陥るな」とメッセージを送る本意とは何か。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 藤田章夫、ダイヤモンド編集部 高野 豪)

含み損の拡大報道に違和感
本質は「等価交換でしかない」

――金利上昇に伴い、生命保険会社が保有する債券の含み損が拡大しています。それに対して、懸念を示す報道が相次いでいます。

松山直樹氏(以下、松山氏) 債券の含み損が拡大しても、(含み益のある)株式を保有しているから大丈夫だ、のように言う人もいますよね。

森本祐司氏(以下、森本氏) 利回りの低い債券から高い債券に入れ替えて、高い利回りを得ることに対して、とても意味があるみたいな報道もありますよ。

松山氏 あれもおかしな話ですよね。

――素人的には納得してしまうのですが。どういった点に問題があるのでしょうか。

松山氏 含み損となった債券を売却して、新しい債券を買い直すということは、損失が発生した分を資本で埋めていることと同義です。それは利回りが上昇した分の債券の利息の現在価値なので、意味がないんですよ。

植村信保氏(以下、植村氏) それなのに「債券を入れ替えて利回りを高める」なんてコメントを出し、それをメディアがそのまま載せてしまうので困ってしまいます。

森本氏 何をやっているのかについて、簡単にお示しすると、こんな感じです。ここでは割引金利は脇に置いておきます。今1000円を払うと、損することになりますが、その代わりに将来100円が毎年1枚、10年間入ってくるとしましょう。この100円が利回りに上乗せされるから、高い利回りが得られていると言っているわけです。でも、これは等価交換でしかありません。

――ソニー生命保険では保有債券の含み損が3兆円を超えたといった話が話題になっています。今までALM(資産と負債の総合管理)を進め過ぎたからで、「ALM悪玉論」のような報道も出てきていますよね。

松山氏は昨今のALMに対する風当たりの強さを「非常に憂慮している」と語る。次ページでは、その理由に加え、金融庁に対する提言や新規制導入が商品販売に与える影響を深掘りする。株主は、今後開示される「経済価値ベースのソルベンシー比率(ESR)」に関する情報をどのように理解し、活用すべきなのかについても話を聞いた。