
いよいよ導入された新ソルベンシー規制。この新規制の最大の特徴は「経済価値ベース」であることだ。それでは、なぜ経済価値ベースを用いる必要があるのだろうか。この意味を正しく理解せず、形式的な活用にとどまってしまうと、導入された新規制の意義が失われてしまいかねない。そこで連載『ダイヤモンド保険ラボ』の「プロフェッショナル・レポート」の本稿では、金融庁の検討チーム、有識者会議のいずれにもメンバーとして参加した筆者が、改めてなぜ「経済価値ベース」なのかについて考察を行う。まず前編では、経済価値とは何かについて、保険商品の「原価」という考え方で整理し、さらにそれを用いることの効用について明らかにする。(キャピタスコンサルティング代表 森本祐司)
保険会社の財務状況を適正に提供できる手法
「経済価値」とは何なのか
「経済価値ベース」とはどういうことか。金融庁がこの言葉を用いる場合、その定義は「市場価格に整合的な評価、または市場に整合的な原則・手法・パラメーターを用いる方法により導かれる将来キャッシュフローの現在価値に基づいて資産・負債を評価する考え方」だと記述されている。
筆者の理解する限りでは、この一文は、2007年2月に公表された保険監督者国際機構(IAIS)のワーキングペーパー「Common Structure for the Assessment of Insurer Solvency」からの引用である。
同ペーパーは、保険会社のソルベンシー(支払い余力)を評価する上での整合性・信頼性・透明性のあるアプローチを策定するためのプロジェクトの一環として公表された。その中には、「財務諸表上の全ての項目に関連した資産、負債およびリスクエクスポージャーを、現時点における経済価値によって評価することが、保険会社の財務状況に関する適正かつ信頼できる情報を提供できる唯一の手法である」とも記されている。
「唯一の」というのはかなり強い表現であり、(少なくとも当時の)IAISは、強い決意を持って経済価値ベースの重要性を浸透させようとしていたのだろうと推察される。
このペーパーに具体的な計算方法は記されていないが、現在、将来の保険金支払いに対する責任準備金などの保険負債は、大きく分けると「現在推計」と「MOCE(保険キャッシュフローの不確実性に対応するマージン)」の合計として計算するのが一般的であり、新規制でもその方法を採用している。これらの計算についてその意味を丁寧に解説しようとすると専門書レベルとなるためここでは省略するが、この方法によって、保険負債は市場と整合的な価値、すなわち「経済価値」となる。
では、なぜ市場と整合的な価値で評価することが重要あり、それがIAISの考える「整合性・信頼性・透明性」のあるものとなるのだろうか。ここを理解していなければ、形式的な計算結果の活用に終わってしまい、かえって弊害ばかりが多くなる。次ページでは、これらを正確に理解するために必要となる保険の「原価」の中身を明らかにしていく。







