生保の新規制「ESR」導入が引き金、金利高・円安の陰で進む“400兆円”資産シフトPhoto:PIXTA

4月から日本の生命保険会社に新しい資本規制が導入された。資産や債務を時価評価し、将来のリスクを総点検するESRと呼ばれるこの制度は、総資産400兆円を超える生命保険業界の行動を根本から変えつつある。(経済ナビゲーター 村田雅志)

4月から始まった生保の新資本規制
400兆円の総資産運用戦略が転換

 2025年4月から日本の生命保険会社(以下、生保)を対象に新しい資本規制が導入された。経済価値ベースのソルベンシー規制(Economic Solvency Ratio、以下ESR)と呼ばれるこの制度は、総資産400兆円を超える生命保険業界の行動を根本から変えつつある。

「保険会社の規制」と聞くと、多くのビジネスパーソンや投資家にとっては縁遠い話に聞こえるかもしれない。しかし、国内最大の機関投資家である生保は、日本国債の約1割を保有し、株式市場でも大きな影響力を持っている。

 今回のESR導入により、生保はその資産運用戦略を大きく転換している。この変化は、国債市場の金利上昇を加速させ、住宅ローン金利の上昇を通じて家計の負担を増大させる可能性がある。

 一部報道によると、大手生保の国内債券の含み損は9.8兆円に膨らんでいるとされている。生保によるESR対応は、株式、債券、為替市場に波及し、日本の資産運用環境を一変させる引き金となる。次ページでは、ESRの本質と、それが大手生保の行動や日本経済に与えるインパクトを俯瞰(ふかん)する。