川上さんは「本当に大丈夫か?」と念を押した。あまりに二つ返事だったので、覚悟が薄いように感じてしまったのだという。古谷さんにはドラマ制作の経験がない。それでもいざ始まれば、AI側のリーダーとして、現場のど真ん中に立つことになる。生半可な気持ちでは務まらない。「コンテンツ作りに命をかけるくらいの、そんなことだよ、と伝えたかった」と川上さんは笑う。

 同じやり取りが何度も続いた1カ月後も、古谷さんの返事は変わらなかった。先輩の心配をよそに、やってみたい気持ちが勝ったのだ。

AIは、ドラマ制作をどう変えたのか

 従来のドラマ制作では、脚本や絵コンテを頼りに、それぞれが思い描いた世界観を持ち寄って撮影に入る。「TOKYO 巫女忍者」では、そこに「ビデオコンテ」が加わった。脚本をもとに生成AIが作る仮の映像だ。本作はSFアクションファンタジーで、その世界観は文字だけでは伝わりにくい。ビデオコンテを見たスタッフ陣からは「なるほど、そういうことか」というリアクションが多かったという。

 もう一つ、大きな違いは、同じカットを何度も作り直したことだ。AIに任せればどんな映像もたちどころに完成――とはならない。1カットずつAIに指示を出し、生成された映像から候補を選別する。監督のイメージと違えばプロンプトを書き直し、また生成する。1カットに1日要したこともあったという。

 だからこそ、「すべてのカットに愛着がある」と古谷さんは語る。学校のシーンはすっといけた、繁華街は苦戦した――どのカットを切り出されても、ひとしきりエピソードトークができるくらいだ。作業内容こそ既存のクリエイター像とはまるで違うが、本質は同じように思えた。

 著作権・肖像権への配慮も徹底した。生成された画像は、一つずつ画像検索にかけ、既存の作品や人物に似ていないかを確認。同じプロンプトでも生成するたびに別物が出てくるため、おびただしい数の画像から模倣の可能性を潰していった。

オンエア後は視聴者の反応が気になって「めちゃくちゃエゴサーチした」という古谷さん  Photo by M.S.オンエア後は視聴者の反応が気になって「めちゃくちゃエゴサーチした」という古谷さん  Photo by M.S.

 俳優からは、「いつか俳優がいなくても全部AIで作れちゃうんじゃない?」という声も上がったという。しかし古谷さんは「それは絶対無理」と言い切る。「俳優が醸し出す空気感や間合いを、生成AIで作り出すのはかなり難しいことです。それに、AIで作れるということと、コンテンツとして面白いかどうかは別の話。すべてをAIで作る必要なんて、そもそもあるのかなって」