彼は、『最近、日本に行って見てきた日本の文化や芸術にとても興奮した』と話していました」
そこでスカリーさんは、「私が関心のあるアートやデザインを見せよう」と言って、近くのメトロポリタン美術館(The Metropolitan Museum of Art)に誘った。「The Met」(ザ・メット)の略称で知られる世界最大級のコレクションを誇る美術館だ。
ジョブズが興奮して語った
「新版画」の“自己表現”とは
スカリーさんは、古代ギリシャの彫刻と陶磁器の展示室に連れて行った。
彼が特に見せたかったのは、背骨の曲線に細心の注意が払われた男性の彫刻だった。「アンフォラ」と呼ばれる容器や、「サイレックス」と呼ばれる浅いコップなども見せた。いずれも2つのとってがついた当時の生活用品だ。
スカリーさんが「ここの展示は有名だから」と言って、中国美術の展示室へ向かったときだった。
「ジョブズが日本の木版画や焼き物のことについて私に教え、日本の文化で学んだある重要なことにとても興奮していました」
続けてスカリーさんが話したジョブズの言葉が、僕には衝撃だった。
「スティーブが話したことで印象的だったのは、版画についてでした。新版画というものが、それまでの木版画とはコンセプトがまったく異なっているという点に強くひかれていました。
それまでの木版画は、まず絵師が下絵を描く。続いて、彫り師が絵のイメージをもとに板を彫る。3番目に摺り師が木版を使って、実際に作品を摺り上げる。それは共同制作ではあるけれど、1人がすべてをやるわけではないのです。
彼が新版画で気に入ったのは、その3つの工程に版画家の創作意図が貫徹されていることでした。彼が賞賛したのは、それこそまさにマッキントッシュのビジョンだったからです。つまり、自分でコンセプトを考え、実際に作品をつくり、プリントアウト(印刷)までできるという一貫したプロセスです。
スクリーンに作成したものを、別の場所にいる人に持って行ってプリントアウトする必要もないのです。ちょっとしたスケッチから始めて、コンピューターのスクリーンに描き、プリンターで印刷できるということなのです。スティーブは、1人の人間が版画の完成に至るまで自己表現できるというアイデアを気に入っていたのです」







